さまざまな分野においてデジタルが掛け合わされた昨今、キャリアアップへの可能性もこれまで以上に広がっています。現在日系企業の製造業に携わっている40代の方のなかには、デジタルを活用した新規事業へ挑戦してみたいと考えている方もいらっしゃると思います。しかし一方で、これまで培ってきた経験やノウハウといった資産を手放して新しいキャリアを築くことに不安を抱えている方もいることでしょう。
本セミナーでは、京セラ(株)やMicrosoftを経て、現在コニカミノルタ株式会社へ入社された執行役員の岸恵一氏と、JAC
Digitalアドバイザーでもあり元日本マイクロソフト業務執行役員として活躍されたご経験のある澤円氏にご登壇いただき、40代からキャリアアップを図ろうとする際には、なにをポイントとして、どのように意思決定するのがよいか、お二人のキャリアを通じて感じたことや実践されたことについておうかがいしました。
※ 本記事は2023年9月14日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。
―1. GAFAM出身者二人のこれまでのキャリア
澤氏:本日は、Microsoftで元同僚の岸さんにお越しいただきました。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
岸氏:私は現在、コニカミノルタで執行役員として技術開発本部の副本部長兼FORXAI事業統括部副統括部長をやらせていただいています。FORXAIと呼んでいるコニカミノルタの画像IoT・画像AIの技術開発責任者を行っていますが、前職はMicrosoftでWindowsの開発を十数年行ってきました。
澤氏:Microsoftにずっといらっしゃって、転職先が日本の製造業ということを意外に感じる方も多いかと思います。僕も転職ではないですが、現在日立製作所でLumada Innovation
Evangelistという肩書きをいただいて日立の人間として活動しています。岸さんはなぜ日系製造業への転職を志したのでしょうか?
岸氏:私はMicrosoftの前に日系企業で働いていたこともあります。Microsoft自体は16年と長かったのですが、ずっとソフトウェアの開発をやってきてソフトウェアだけというのに限界を感じました。ソフトウェアとハードウェアのコンビネーションが今後重要なのではないかと考えた時に、モノを作っている日系製造業はとても強いのではないかと思ったのが転職のきっかけです。これまで長きに渡りものづくりをしてきたという歴史的背景を感じますし、持っているハードウェアの力にソフトウェアの力を加えれば、より加速できるのではないかといった面白さも感じます。
澤氏:世界的なソフトウェアの開発に携わっていた知見を生かすという意味で、日系企業それも製造業の開発に携わっていくのは非常に楽しそうです。ちなみに、Microsoft在職中に転職を考えた際、日系製造業を転職の候補に挙げていましたか?
岸氏:いや、挙がっていないですね。Windowsの開発をしているときに日本のPCメーカーやハードウェアメーカーと一緒に働いていていろいろ話を聞いていましたから、合わないだろうなとは感じてました。
澤氏:でもコニカミノルタに入ったら違っていた?
岸氏:2016年に入社したのですが、新しいことにチャレンジしようという風土が出てきていたことと、ちょうど“モノ売りからコト売り”がいわれていた時期だったこともあり、タイミングがよかったんだと思います。
―2. 40代転職で活躍する人のポイントについて
澤氏:岸さんはコニカミノルタに40歳で転職されました。僕はあまり年齢を気にしなくていいのではと思っていますが、十数年から二十年のキャリアを積んだ40代の転職だと、岸さんはこれまでのご経験からなにが必要でどういう人が活躍すると思いますか?
岸氏:私は日系企業を一度経験した後Microsoftに転職、そしてコニカミノルタへの転職、と二回転職を経験しています。一回目の転職は「これがやりたい」というだけで転職しました。二回目の転職時には、経験もかなり積んでおり、自分のなかでできることもわかっていました。ただし、やれることだけで転職するのは違うと感じていて、やりたいことは持っていないといけないとは思っていました。
とはいえ20代の若手ではないですから、夢ばかり語っていても失敗してしまいかねません。やりたいことの軸がありつつ自分の限界もわかったうえで、譲れない点を考慮した転職が40代の転職でした。ですから、そこがクリアできる人なら40代で転職したとしても活躍できると思います。
澤氏:やれることは過去の話なので、事実として説明できるものの、やりたいことは未来の話なので、まだ形になっていないものです。そこでは、自分が会社の中のピースになり得ると証明できることが大事になるので、転職したい企業をしっかり観察して情報収集する必要があります。
岸氏:40代の転職では、「ミッシングピースがこれだ」と思って活動している会社を選ぶのがよいのではないでしょうか。そこにうまくはまれば自分も企業も伸びていくのではないかと思います。
―3. 転職する企業選びのポイント
澤氏:岸さんの場合、日系製造業はパートナー企業として一緒に仕事をしていたこともありイメージしやすかったと思いますが、ほかの会社でなくコニカミノルタに転職する決定打となったのはなんだったのでしょうか?
岸氏:コニカミノルタはメーカーでかつハードウェア込みでソフトウェアをやれる会社であり、変革していく風土があったことが私にとって魅力的に映りました。ここであればやりたいことがやれるのではないかというポイントがマッチしたことが大きかったと思います。
自身の開発におけるフィロソフィーと企業がマッチしているかは転職の譲れないポイントの一つでした。ですから、面接の際に「ソフトウェアについてどう考えているのか?」「開発の一番ポイントはなにか?」といった質問をした記憶があります。
澤氏:外資系企業から日系企業への転職で多くの方が気になるのが給与です。その点はどのように考えていましたか?
岸氏:外資系企業は確かに給与が高いかもしれません。でも、Microsoft時代のWindowsリリース前なんかは、「時給換算したら給与はすごく安いのでは?」と思ったことがざらにありましたので、そのように考えれば日系企業もそこまで変わらないのではないかとは思っていました。それよりもハードウェアのナレッジを持った人が近くにいることが今まではなかったので、そこは転職の大きなメリットです。転職活動では、給与以外の部分も含めてトータルで考えるのがよいと思います。
―4. 日系製造業で働く魅力とは?
澤氏:外資系企業から日系製造業へ転職してみて「ここはいいな」と思ったこと、これが日系製造業の良さだなと思えることを教えてください。
岸氏:モノづくりへのこだわりや情熱、日々の改善はメーカーだからこそだと思っています。しかし、それが製造業のDNAでコアであり、誇る部分でもあるにもかかわらず、最近薄れているのを残念に感じています。たとえば、DXなんて改善活動以外のなにものでもないと思っているのですが、改善活動と捉えれば日本企業が秀でていないのはおかしいはずです。それなのに「DXできません」というのは違うのではないかと思います。
ソフトウェアの文化やデジタルの部分など、今までやってきてよかったところを少しでも伸ばすことができれば、大きく成長していけるのは日本の製造業のいいところだと思います。とはいえ、きっちりしすぎてもマイナスになるので、いい塩梅を見つけられるとコニカミノルタ含めて日系製造業もさらに伸びしろがあるのではないかと感じます。
澤氏:いいものを創り出すということに関する真剣さは、外資系を経験した人間からみても誇っていい部分かもしれません。ちなみに、コニカミノルタはマーケットとして当然日本だけでなくグローバルをみていると思います。グローバルビジネス展開している企業として、日本に本社がある企業で働く面白さについてなにか感じることってありますか?
岸氏:「本社での開発」ということに尽きると思います。コニカミノルタは売上の大半が海外という企業なので、日本で作ったものを広く世界に出していけることは楽しいです。また、開発者としては製品を使ってくれる人が多ければ多いほど励みになります。
―5. 創業150年! 挑戦しつづけるコニカミノルタ
澤氏:コニカミノルタは今年創業150周年ということで、その歴史の重みを感じることはありますか?
岸氏:重みを感じることはありますが、同時に150年どうして続けられているのだろう? というほうが大きくて、チャレンジ・変革していける文化が根付いていると感じます。フィルム撤退・カメラ売却などもありましたし、なにかに固執していたら150年も続いていないですからね。
澤氏:会社のビジョンや方向性を社員に浸透させるような機会はあるのですか?
岸氏:社長自ら社員に話すこともありますし、担当役員がメンバーを集めて話す機会もあります。とはいえ、単に一方通行にせず双方向にしていくためにデジタルの力を最大限活用している会社でもあります。
澤氏:現在岸さんが担当されているFORXAIの話も詳しく教えてください。
岸氏:FORXAIとは、我々が画像IoT技術と呼んでいるものです。コニカミノルタのコア部分はなにかというとフィルムもカメラ、複写機もそうですが「画像の技術」なんです。それにAIを掛け合わせたらどのようなことができるのかということに取り組んできた結果、FORXAIとしてリリースさせていただいています。
私が入社してからずっと担当させていただいて、ここまで成長させてきた技術ですが、AIやIoTに関してはコニカミノルタ1社だけではどうにもなりません。そのため、お客さんの課題を解決するために、現在は「パートナープログラム」によってパートナー企業と協業していくことを推進しています。
―6. 質疑応答
Q.ソフトウェアで商売するためにはハードとソフトの開発サイトを可能な限り切り離し、ソフトウェアをアジャイルに開発することが重要だと考えます。製造業の会社においてそのような価値観を共有し、仕組みをつくることは簡単ではないと想像しますが実際はどうでしたか?
A.考え方や開発のサイクルは違うというマインドセットを共有していくというのが一番大事でありハードルでもあったと感じています。しかし、そこさえ乗り越えてしまえばソフトウェアであってもハードウェアであっても開発行為というところは変わりません。お互い同じ製品をやっているのであれば、良い製品を作りたいと考えるのは同じですから、あとは落としどころを見つけてコミュニケーションを取っていくしかないと思います。
Q.自分を理解・譲れない部分を言語化することはすぐにできましたか?具体的に行ったことがあれば教えてください。
A.改めてこれをやっていたというものはありませんが、自分が徹底的に楽をするためにはどうしたらいいのかを常に追求していました。たとえば、ソフトウェアが入っていけないハードウェア文化の会社で「なにをやったらハードウェア会社のソフトウェアが楽ができるのだろう?」といったことをいつも考えていました。
Q.キャリアについての議題は昇進した姿を求められると思うのですが、昇進以外のキャリアアップにはどんなものがありますか?
A.外資系IT企業出身者はあまり肩書きに重きを置かない傾向にあります。昇進は単に肩書きにすぎないので、フォーカスしすぎるのはよくありません。キャリアアップ=昇進ではなく、やりたいことをやれることのほうがキャリアアップであると感じます。
Q.属人化しがちな日本型製造業のDX・IoT化についてどうお考えですか? また日系製造業の強みと今後目指す方向性についておうかがいしたいです。
A.属人化が問題なのかというと必ずしも悪い面だけではありません。とはいえ、秘匿化や伝承されないことが問題で、いかにオープンにしていくかが課題です。また目指す方向性については、製造業は常に改善活動をやり続けているはずなので、今までやってきたことの延長をデジタルの活用でさらに加速できると思っています。
Q.日本企業の今後の成長のカギの一つは日本製品の品質のグローバルの価値向上だと感じています。海外の現地の品質のニーズのズレについてはどのように対応されていますか?
A.品質は日系企業が今後成長するための重要なファクターだと思っていますが、過剰品質も考えなければなりません。日本企業は過剰品質の度合いが振り切っていると感じています。そこは品質を現地に応じて柔軟に変化させるより、使うシーンに応じて変化させることを、全ての開発における品質責任者・チーム含め考えていく必要があると思っています。
Q.将来が不安なので、DXなどなにかしらの専門スキルを身に付けられないかと思っていますが、どのようにすればよいでしょうか?
A.将来に不安があると感じた時点で、手を動かしさえすればなんらかのスキルは身につけられると思います。単純にネットで調べるだけで身に付くスキルもありますので、まずは最初の一歩を踏み出すことが大事です。ただし、「世の中がこれを求めているから」といった判断基準で選んでも決して幸せにはなりません。自分がやりたいことを理解したうえで突き進んでいくことが重要となります。