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- 成迫 剛志氏
- 株式会社デンソー
執行幹部 研究開発センター
成迫 剛志氏 - IBM、伊藤忠商事、香港のIT事業会社社長、独SAP、中国方正集団、国内ベンチャーのビットアイル、米国インターネット関連企業のエクイニクスなど国内外のIT企業の役員を経て、2016年8月デンソーに入社。
コネクティッド時代のIoT推進を担当し、2017年4月にはデジタルイノベーション室を新設、その後MaaS開発部長などを経て、現在は研究開発センター執行幹部としてクラウド技術およびソフトウェア技術領域を担当。岐阜大学客員教授。
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- 澤 円氏
- 株式会社圓窓
澤 円氏 - 元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険の IT子会社勤務を経て、1997 年、日本マイクロソフト株式会社へ。ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006 年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。2020年8月末に退社。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicyパーソナリティ。武蔵野大学専任教員。
ウェビナー開催レポート
【イベントレポート】ソフトウェアエンジニアが未来のモビリティ社会を創る
株式会社デンソー
続々と新興メーカーが参入し、グローバル競争が激化している自動車業界では、自動運転をはじめとしたさまざまな技術革新が進んでおり、人々の価値観が多様化する中、車の使われ方も大きく変化しています。
自動運転では実証実験がすでにスタートし、自家用車においても、よりパーソナライズされたサービスやUXが重要視されるフェーズに突入、これらの技術革新をけん引するのがソフトウェアであり、その開発を担うソフトウェアエンジニアの活躍に注目が集まっています。
本セミナーでは、自動車業界の動向とソフトウェアの重要性や、これからのモビリティ業界を担うソフトウェアエンジニアへの期待についてうかがっていきます。
ご登壇いただくのは、株式会社デンソー(以下、デンソー)で研究開発センター執行幹部としてクラウド技術およびソフトウェア技術領域を担当されている成迫剛志氏。Digitalアドバイザーでもある澤円氏が質問者となり、IT企業、SIer、コンサルティング会社で働くソフトウェアエンジニアや今後のキャリアデザインを見直している方に向けてお話いただきます。
**本記事は2024年1月15日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。
<登壇者・登壇企業紹介>
1. 現在の自動車業界の動向やソフトウェアの重要性について
澤氏:本日は「ソフトウェアエンジニアが未来のモビリティ社会を創る」をテーマに、株式会社デンソー執行幹部 研究開発センター 成迫剛志様にお越しいただきました。最初に簡単な自己紹介をお願いします。
成迫氏:私はこれまで長きにわたりIT業界、特にインターネットやクラウド領域に携わっておりまして、一時期はSAPジャパンのリテールアンドホールセール担当をやっていましたが、7年前に異業種となる自動車業界のデンソーに飛び込みました。
澤氏:最近では多くの外資系IT企業出身者が、日本の昔からある製造業の会社に転職をするケースが増えていると感じます。そのような中、成迫さんはなぜデンソーへ入社されたのでしょう?
成迫氏:現在自動車業界ではソフトウェアの重要性が増しており、私はデンソーで新しいチームを作ってほしいという命題を与えられて入社しました。デンソーは今までいた業界のソフトウェアの作り方とは大きく異なっており、メカ・エレ・ソフトからソフト・エレ・メカへ変化したり、CASEやOTA(Over The Air)、SDV(Software Defined Vehicle)、知能化といった文脈になっていく中で、チームを作るというミッションがありました。
その点に関してはクラウドやインターネットといったIT業界での経験が自動車業界で生かせると思いましたし、インターネット業界ではトップになれなくても、自動車業界であればトップになれるのでは、と思ったことが入社を決めた理由です。
実際に入社した後は、異業種から入ってパイオニア的に開拓を実行していることもあり、私が何をいってもみんなが話を聞いてくれますし、信じてくれる部分があるのはありがたいと感じます。
澤氏:成迫さんからみて今の自動車業界の動向やソフトウェアの重要性についてどう感じていますか?
成迫氏:何年か前から自動車業界では、CASE(コネクティッド、オートノマス、シェアリング、電気自動車EV)などの言葉が聞かれるようになり、今は100年に1度の変革期と言われていますが、これからはソフトウェアエンジニアが必要になる、といろいろな会社で叫ばれだしたように思います。
そもそも自動車業界は、クラウドの世界と比べるとものすごくスピードが遅い業界です。これは車を設計して量産するまで4、5年かかることが一番の理由なのですが、そのスピードに合わせていろいろなものが動いていきますし、故障や事故は人命に関わるので、法規制や品質にすごく厳しいことがさらに時間がかかる要因となります。そのような中でも着実に前には進んでいて、特に自動運転やコネクティッド、デジタルツイン、ソフトウェア・デファインド・ビークル、インテリジェンス化といった部分においてはかなり前進していますし、ソフトウェア部分の重要性も非常に高く、大きなトレンドとなっているのを感じます。
澤氏:自動車業界における世界観の変化を肌で感じることはありますか?
成迫氏:昔ながらの自動車業界が言っているソフトウェアの世界観とはかなり変わってきているのは非常に感じます。たとえば、自動運転は非常に複雑で、走る・曲がる・止まるを制御するために画像認識したり、自己位置推定といって自分の車がどこにいるのか、車線がどこにあるかなど、周囲の状況の把握を全てソフトウェアで実装しています。そこにはAIが入っていたり、データをクラウドに上げて、クラウドからデータを取得するといったことが行われています。
これはIT業界やクラウドのソフトウェア領域よりも幅が広く、マイコン上で動いているようなエアバックを開くためのソフトウェアまで全部連動させなければならず、ソフトウェアの中でも最も広い領域をやらなければならないのが自動車業界のソフトウェアエンジニアではないかと感じます。
2. 伝統的自動車メーカーや新興自動車メーカーとデンソーとの立ち位置
澤氏:現在の自動車業界の構図としては、昔から日本を引っぱってきているトヨタや日産、ホンダのような伝統的な自動車メーカーに対し、最近はテスラやBYDといった新興メーカーが台頭してきています。これらのメーカーについてはどのように感じていますか?またデンソーのような立ち位置の会社は、これらの自動車メーカーに対してどういった関わり方をしているのでしょうか?
成迫氏:テスラやBYDの自動車は確かによくできていますが、そういう新興メーカーも、実際にはBYDに関して言えばバッテリー屋ですし、テスラも自動車屋ではありません。異業種の人たちがバッテリーで動く電気自動車を前提に、ソフトウェアファーストでかつゼロスクラッチで車を作ったらこうなった、というものでしかありません。
その一方で、伝統的な自動車メーカー、特に日本車とドイツ車のような信頼性のある車って、昔からの技術の積み重ねであり、基本構造は変わらずに徐々に進化させ、そこにソフトウェアを乗っけてきたわけです。それにより、信頼性が担保されたり機能や安全性が進化していたりする。長きにわたり継続的に進化させてきたという部分において伝統的なメーカーと新興メーカーには大きな違いがあるのかなと思います。
ただし、知能化の領域や自動運転の領域は継続的な進化では追いつかないので、特に伝統的な自動車メーカーを中心に各社新しい取り組みを行っているように思います。トヨタは例外ですが、他の日本の自動車メーカーが自社だけでそのような取り組みを行えるかというと、自動車は自動車メーカー一社で作っているわけではないので、なかなかできないのが現実です。
そこでニュートラルな立ち位置のデンソーのような会社がいろいろな自動車メーカーで共通で使えるような新しい技術を作り、テスラやBYDに負けないような車を作りましょう、といった取り組みを行っています。
3. 自動車業界およびモビリティ業界におけるソフトウェアエンジニアへの期待
澤氏:自動車産業やモビリティ業界への転職を検討しているソフトウェアエンジニアに対してはどのような期待値をお持ちですか?
成迫氏:自動車もソフトウェアファースト、ソフトウエア・デファインドになってくる、コネクティッド前提になってくるとなれば、IT業界やクラウドでやっているようなソフトウェア技術も必要となります。当然言語も違いますし、オブジェクト志向みたいな開発構造自体も違うし、文化やスピード感も全然違ったりします。そのあたりを開拓するのが当たり前に感じられるような人にはぜひ自動車業界へ来てもらいたいと思います。
私自身がパイオニアとして早い段階で入社した人間のひとりで、孤軍奮闘しながらも仲間を増やして良い方向に持っていけていると感じてはいるものの、さらに多くの仲間が欲しいと思っていますし、クラウド領域だけでなく車の根本的な部分や自動運転の領域にもそういったマインドセットをもつ人が必要になると感じています。特に自動運転という領域は前例がほぼありませんので、現時点では間違いなくファーストペンギン集団になることができる分野といえるかもしれません。
4. 2030年にはソフトウェアエンジニアを1万8000人規模へ
澤氏:デンソーの社内事情や現在の取り組みなどについて教えてください。
成迫氏:デンソーは現在全世界で17万人働いているのですが、今はソフトウェアエンジニアを増やそうと動いており、2030年までにソフトウェアエンジニアを今の1.5倍となる18,000人規模まで拡大しようといった目標を掲げています。
実際どうやってソフトウェアエンジニアを増やしていくかというと、今の社員の中でハードをやっている人たちをリスキリングによってソフトウェアエンジニアに転向させようといったプランや、キャリア採用による増員を図ろうと考えています。
また新たな取り組みとして、デンソーはIT業界のアジャイルコミュニティやクラウドコミュニティといったところに積極的にデンソーの看板で参加しているのですが、それと同じことを社内でも行おうと、社内にアジャイルコミュニティを作って活動しています。
メンバーとしてはいろいろな部署の人が参加していいて、設計部隊もいれば量産部隊、ハードをやっている部隊、工場で生産管理やっているような部隊など、みんなでアジャイルコミュニティを作りました。このようなコミュニティが今までなかったがゆえに仲間がいなかったものの、横のつながりができるようになったことで社内が活性化できたように思います。
澤氏:成迫さんが感じるデンソーの魅力って何ですか?
成迫氏:私がデンソーに入社を決めた大きな理由のひとつとして、デンソーがグローバル企業で、しかも本社のヘッドクォーターであったことはすごく重要なポイントでした。過去に外資系企業や中国のIT企業にいた時にはかなり好きなことやらせてもらっていたものの、それでも最終的には本社内で方向性が決められてしまったり本社で設計したりする部分が多く、本社でない国で働く場合は現場の声を届けるのにすごく骨が折れると感じていました。
でも、デンソーのように日本の製造業で日本が中心の企業の場合はすでにコアの部分にいることもあっていろいろ話が通しやすかったり、自分たちで方向性を変えられたりできるので、グローバル企業のヘッドクォーターで働くことは、環境的にも非常によかったと感じています。
5. デンソー社内におけるキャリアデザインの築き方
澤氏:成迫さんは外資系のソフトウェア会社などを経験されたうえでデンソーに入社されています。キャリアデザインという観点でいえばどのようにお考えですか?
成迫氏:ソフトウェアエンジニアをはじめいろいろなエンジニアの方々も、自身のキャリアはそれなりに考えていると思いますし、様々な会社を渡り歩こうとしている方だと、10年後、20年後どういう道に進みたいかを明確に、またはぼんやりと考えている方は多いでしょう。
そのような中、どんな社会課題があってどんなことをやりたいのか、どんなことが成し遂げられるか?みたいなことに対し、手段としてソフトウェア使うキャリアを歩みたいなら日本のSIerではない自動車業界の中でソフトウェアをやっていくのがよいのではないかと感じます。
もちろん自動車業界でも方向や選択がいろいろあって、自動運転をやりたい人やコネクティッドをやりたい人、車だけでなくモビリティ全体をやりたいという人もいるでしょう。技術者としてフェローみたいなものになりたい、ラインマネージメントをやっていきたいなど、幅広い領域においていろいろなキャリアデザインを築けるのが、デンソーをはじめとした自動車業界のエンジニアではないでしょうか。
ちなみに私はデンソーで最初にアジャイル開発チームを、またクラウド活用を推進するCCoE(Cloud Center of Excellence)を立ち上げていますが、経営層には常に新しい技術を知ってほしいと思っていて、クラウドやChat GPTといったIT技術について直接話すこともあります。ヘッドクォーターにいるメリットを生かし、フィルターを間に挟むことなく古い体制の中に伝えていけることには面白さを感じています。
6. 一緒に働きたい人物像について
澤氏:これから成迫さんはどんな人と働きたいと思っていますか?
成迫氏:現在は技術が大きく変革している時代であると感じていて、それは自動運転だけでなくソフトウェア技術にも大きな変革が起きています。たとえば生成AIもそうですしWeb3.0も無視できないと思っているのですが、このような変革の中にいることをきちんと理解しつつ、何か変えていきたいと考える人たちと一緒に仕事をしたいと思っています。
私自身がずっとクラウドやインターネットの業界にいましたので、クラウドは欧米や中国にも負けてしまったという事実を目の当たりにしてきました。ですから、自動車やモビリティに関してはそれと同じことにならないよう「日本はすごい」と言われ続けるように、我々の技術で世界を変えてやろう、という思いを持った仲間が欲しいですね。
7.質疑応答
Q.OEMとティア1の関係性を考えた際に、ティア1における企画・開発の裁量権はどの程度の自由度があるのでしょうか?
A.自動車業界はアメリカ・ドイツ・日本の3つの国において強いという特徴がありますが、デンソーはグローバルのティア1サプライヤーであり、ドイツのボッシュもティア1であることから、ボッシュ対デンソーといった形で比較されることがあります。
ボッシュとデンソーの大きな違いですが、ボッシュが仕様を決めてフォルクスワーゲンやメルセデス、BMWといったメーカーに「こういう仕様でやったらいいですよ」と紹介し車を作る構造になっています。
一方で日本では強いOEMがいろいろな企画を出して、それに基づきティア1やティア2が開発するといった流れになっています。しかし、ソフトウェアがクローズアップされる時代では、日本もドイツのようにオープン性を持たせていかなければと感じます。もちろん自動車会社が全てをオープンにできるわけではありませんが、デンソーのような会社がニュートラルとなり、企画や開発、仕様を決めていけるようにしなければなりません。今はそうなるように一生懸命やっているところですし、自動車業界もだんだんその方向に変わってきているのではないかと思います。
Q.アジャイル開発が必要な社会環境の中、従来型の開発組織や業界の中で感じる問題意識や解決策について教えてください。
A.社会環境がアジャイル開発を必要としているわけでもないですし、従来の組織がウォーターフォール開発ばかりをやっているわけではなくどっちがいい悪いではないとは思うので、それぞれに適した方法でやればよいと思います。
デンソーのような会社には技術者も多く、中には頑固な人もいますが、リーズナブルな選択を自分の頭で考えて解決できる人たちだとは思うので、「何も変わらない」とか「そんな固い会社」とかは思わずに、技術者同士でも技術の領域は違ってもきちんと議論をして解決していけると思います。
また、小さな実績でも作らないことには話を聞いてもらえませんので、誰かがやってもらうのを待つのではなく自分から行動するのも大事です。
Q.自動車業界内でソフトウェアエンジニアに転向する場合、どのスキルセットを選ぶべきか、考えるポイントがあれば教えてください。
A.どのスキルセットを選ぶのがよいかについては、何がやりたいかによります。今は変化の時代ですので、ルールが既に固まっているところで一番になるのはかなり大変です。よっておすすめとしてはあまり成熟していない領域だとパイオニアになれる確率は高いといえます。たとえば、デンソーであればヘッドクォーターで一番になれば17万人のトップになれるわけで、面白いキャリアが築けると思います。
Q.自動車業界はIT系やサービス系の業界よりスピード感が遅く、自己実現や目的達成がしづらいのではと思います。そのため、モチベーションが続かないこともあるかと思いますがモチベーション維持する方法があれば教えてください。
A.スピード感が遅いと感じるなら、自らの手でスピードを上げることができます。ハードルが低ければ成し遂げやすいことも多々ありますので、それらをひとつずつこなすことでモチベーションを保つことは可能だと思います。
また自己実現については、どの領域を選ぶか、自分がどうなりたいかっていうところによります。たとえば、IT技術を極めてどんな新しいアイテムを作りたいと思うのかによってキャリアデザインや選ぶ会社も変わります。とはいえ、終身雇用の時代はすでに終わった感はあるので、さまざまな仕事や業界を経験していくこともとても大事です。ちなみにデンソーは、スタートアップの働きやすさと大企業の安定性が両立している会社です。
この記事の筆者
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