サンファーマの道のり
松 園:
まずはサンファーマ設立の背景についてお聞かせください。
中道氏:
1983年にインドで創業し、最初は2人の営業と5品目の精神病治療薬から始めました。当時、インドの製薬企業が注力していたのは、抗生物質やグルタミン、咳止めシロップでした。そこで創業者のディリップ・シャングビ(Dilip Shanghvi)氏は、抗うつ病薬や心血管性高血圧薬といった生活習慣病治療薬へ進出することにしたのです。他人とは違う道を進むという彼の勇気は報われました。ささやかな創業から急速に成長して、ジェネリック製薬企業の世界第4位、インドではナンバー・ワンの製薬企業として浮上しました。我々が擁するMRはインドだけで9,000名を超えます。
松 園:
そのニッチな方向を選んだことが急成長のエンジンになったと。
中道氏:
そうですね。創業して最初の十数年はインドに集中していて、海外展開はあまり考えていませんでした。1996年頃からアメリカに進出した第二期。2010年前後からの第三期では、ヨーロッパ、日本や新興国へと進みました。日本には2012年に法人を設立。成長を段階的に進める、それが当社の成功のバックボーンだと思います。
松 園:
創業時から選択と集中をはっきりさせたビジョンがあるのですね。
中道氏:
シャングビ氏はインド生まれです。彼の断固とした決意、ビジネス感覚、並外れた先見の明により、サンファーマは一目置かれる世界的ブランドになりました。強い連携姿勢が彼の経営スタイルです。また日本法人として、「日本法人としてはどう思っているの?」と一から議論ができます。いろいろな意味で双方向。それがやりがいにつながっていますし、相談しながら進めるやり方は日本の精神風土と親和性が高いと思います。
松 園:
外資系企業には、“本社の意見は絶対”というタイプも多いですが、全然違いますね。2012年に日本でスタートした経緯はどんなものだったのですか。
中道氏:
日本という国はR&D、技術的な専門知識、品質への徹底したこだわりで知られています。事実、日本は製品の品質基準が高いことで世界的に有名です。ライフサイエンス産業など健康関連領域でのビジネスチャンスに溢れている。実はサンファーマは以前からずっと熱い目で日本を見ていました。日本に自分たちの製品を紹介し、日本企業と共にジェネリック薬を開発したい。また、双方向のビジネスを展開したいという想いがあり、2012年に会社を設立しました。
松 園:
日本では、いよいよ発展のフェーズに入りましたね。
中道氏:
日本の1番のエポックは2016年3月末、ノバルティスファーマから既に市場に出ている医薬品14成分を承継する契約を締結したことです。そこまでは時間がかかっても自社開発の医薬品を上市していくことを事業展開の中核としていましたが、加えて14成分の承継により事業が拡大しました。それまでの自社開発製品のみに依存するスタイルから一気に変わったのです。
すでに患者さんに投与されている医薬品なので、お客様に混乱を与えてはいけません。決定から、従業員を増員。きちんと研修もして、間違いなく責任をまっとうできる体制にしてきました。特に重点的に採用したのが安全管理、品質を守る部門。
一方で販売部門、医療機関への情報提供、医療機関からのフィードバックを受ける部門は田辺三菱製薬株式会社に委託しました。それは、短期間に我々だけで全国の患者さんに10万軒以上の医療機関を通じ、医薬品をお届けする体制を整えることは難しいと判断したからです。まず患者さんに医薬品を情報と共にお届けする部分は信頼できるパートナーにお任せして、基礎を固める。そして次のステップへ。
松 園:
大きなチャンスにも冷静な判断ですね。さらなる発展が期待される今後の展開は、どうお考えですか?
中道氏:
当社はジェネリック企業として創業しました。どの国の市場もそうですが、日本の多くのジェネリック企業の業績を見ても、ジェネリック医薬品ビジネスは数年前とは違ってきています。
アメリカでは何年も前に同じことが起こっています。我々がアメリカで影響力のあるジェネリック企業になろうと取り組んでいた時期、市場も変化して、価格競争が激しくなりました。お客様が統合されて、薬剤給付を管理する企業が薬剤決定の力を持ち、大手薬局チェーンが患者さんの薬の窓口になり、例えば1000軒のお客様が10軒に集約され、それぞれが巨大な交渉力を持つという状況になりました。
ジェネリックは今も当社の事業の中核ですが、将来的な市場発展の方向性を考えると、ジェネリック医薬品に加えて独自の製品パイプラインを育てることに力を注いでいます。
当社は常に患者さんと医療従事者のアンメットニーズに取り組むことを信条としてきました。例を挙げると、1つは特殊な技術を応用したジェネリック。有効成分は特許が切れて確立されている。それをどう投与するかで自分たちの特殊技術が活きてくる。例えば注射しかなかったところに経口とか、経皮吸収、吸入剤とか投与経路は発展させられる。また私たちが得意なのがリポソーム技術です。このジェネリック医薬品開発は世界的に数社しかできません。
2つ目は、忙しい医療従事者を助ける技術です。例えば点滴などに使う医薬品は、凍結乾燥したものが多いのですが、使うときに注射用水等の溶解液を入れて溶かさなければいけないのです。それがすでに溶けていれば調整の手間がかからず注射、点滴にすぐ使えます。
3つ目として、薬剤師を守る技術の開発も行ってきました。多くの注射剤で問題になっているのが曝露。例えば抗がん剤は患者さんにとってリスクがあるけれども、治療効果が期待されるというメリットがあるから使用されます。しかし健康な薬剤師が薬剤調整の段階で体内に吸収すると危険です。当社の特許技術であるInfuSmart RTAバッグは、そういうリスクを削減するのに役立っています。
松 園:
新しい展開をするにあたり、将来はどのくらいの増員を目指していますか。
中道氏:
MRの数も含め、50~100名位で全国展開していきたいと思っています。