SOMPOホールディングス株式会社は、2016年にSOMPOグループ全体のデジタル戦略を推進する組織「SOMPO Digital Lab」を立ち上げました。その中で、アジャイル開発の手法を取り入れビジネス開発〜実証実験のサイクルをスピーディーに回して、顧客にとって価値あるサービスを次々に生み出しているSprintチームの3名に、組織の立ち上げ背景から開発の進め方、求める人材像と今後の展望についてお聞きしました。
写真左から
- SOMPOホールディングス株式会社 デジタル戦略部 課長 細 慎 氏
- 新卒で当社に入社後、商品企画部〜情報システム部〜システム子会社への出向を経て2018年にSOMPO Digital Labに参画。同年、SOMPOグループで唯一のアジャイル価値開発組織である「SOMPO Sprintチーム」の立ち上げに携わる。
- 阪 倫嘉 氏
- 新卒で某パッケージ開発会社に入社し、ECパッケージの開発に約10年間従事した後に、2019年にSOMPO Digital Labに参画。Sprintチームのエンジニア統括として、チーム内のアジャイル開発体制の構築、事業部門を巻き込んでのアジャイル開発の推進を行っている。部内の愛称は若頭。
- 原田 養正 氏
- UXデザインコンサルティングファーム他での20年超におよぶクライアントワークを経て、2019年、SOMPO Digital Labにチーフデザイナーとして参画。デザインリサーチからのユーザー要求抽出、コンセプトメイクといった仕事が得意だったが、現職ではそれらは勿論のこと、「デザイン」と名のつくあらゆることを担当。「ユーザー視点が大事なんです」を言い訳に、なかなか保険に詳しくなろうとしない。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
1. SOMPO Digital Labの組織体制
―SOMPO Digital Labの設立背景を教えてください。
細氏:2016年に、SOMPOグループの現在の中期経営計画がスタートし、それと同時期にSOMPOホールディングスの中のデジタル戦略部としてSOMPO Digital Labが立ち上がりました。
SOMPOグループは「安心・安全・健康のテーマパーク」というスローガンを掲げ、持株会社SOMPOホールディングスの傘下に「国内損保」「海外保険」「国内生保」「介護・ヘルスケア」の3つの大きな事業ドメインを有しています。
SOMPO Digital Labは、日本国内のみならず海外グループ会社を含めグループ全体のDX:デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、既存事業の変革と新規事業創出に取り組んでおります。
―SOMPOグループがそこまで「デジタル」に重きを置いているのはなぜでしょうか。
細氏:中経におけるデジタル戦略推進の方針として、「1. 各事業部門における業務効率化の進展」「2. デジタル技術を活用したお客さま接点の変革」「3. デジタルネイティブ向けのマーケティング」「4. 新たなビジネスモデルの進化」という4つのテーマを掲げています。
この背景にあるのは、来たるべき「Digital Disruption」の時代に対して、自らが積極的にDX:デジタルトランスフォーメーションを仕掛け、デジタル対応力をコアコンピタンスとした「真のサービス産業」のグループとなることを目指すことにあります。
例えば現在、損保ジャパンの収入保険料の約半分を占める主力商品は自動車保険ですが、今後、カーシェアリングや自動運転車が普及すると、自動車保険加入数だけでなく事故の発生リスクそのものも減っていきます。すると保険の需要も低下していくでしょう。
私たちはそれを座して待つのではなく、新たな技術にビジネスモデルを壊されるくらいなら、自ら壊して生まれ変ろうという意志のもと、デジタル起点で新しいビジネスモデルの創造に取り組んでいます。
―SOMPO Digital Labの役割・ミッションを教えてください。
細氏:メインミッションは、SOMPOグループ全体におけるデジタルを活用した「安心・安全・健康」を提供する新たなビジネスモデル推進のためのR&D(研究開発)です。2016年にSOMPO Digital Labが東京で立ち上がったのと同時に、アメリカのシリコンバレーにもラボを置きました。さらに2018年にはイスラエルのテルアビブにもラボを設立し、3拠点の体制を敷いています。
海外2拠点それぞれが、現地の有力なスタートアップや最新のデジタル技術を調査・収集して東京と連携し、それらをSOMPOグループの各事業にどのように生かせるのか、PoC(概念実証)を繰り返してユーザーの受容性を確かめながら開発を進めています。
SOMPO Digital Labの立ち上げ以降、基本的には外部のSIer・ベンダーなどのパートナーと一緒にPoCを進めていましたが、コストが余計にかかる、開発期間も長期化する傾向にある、そして内部にデジタルの知見・ノウハウがなかなか溜まらないという課題がありました。そこで、内製でもっとライトに、クイックに、スピーディーにPoCを行おうと2018年7月に発足したのが、現在私たちが所属するSprintチームです。
規模の大きな企業では、システム子会社にDX推進組織(内製化組織)を置くケースが多いと思われますが、私たちはホールディングスの中にあって、お客さまに真に価値を感じていただけるサービスをつくることを目指しています。ですから、基本的な姿勢としてビジネス部門側から言われたことだけをやるいわゆる「受託」マインドは持っていません。自律的に価値開発を行うチームであるということを、常々メンバー同士で確認し合っています。
2. プロジェクトの進め方とこれまでの成果
―PoCに向けた開発はどのように進めていくのでしょうか。
細氏:Sprintチーム発足時のメンバーは7名でしたが、現在は私たち社員と、外部の派遣・フリーランスのデザイナーやエンジニアに常駐してもらい、総勢36名で開発を行っています。アジャイル開発で、原則として2週間で1スプリントを回すスクラム方式を採っています。
アジャイルが本来持つ「シンプル」「スモール」「スピーディ」の3Sに加え、「コミュニケーション」「コラボレーティブ」の2Cを重視し、対話を通じて関係者が同じベクトルを向いて仕事をすることを大事にしているのが特徴です。
また、SprintチームはSOMPOグループの中でも唯一のアジャイル組織です。アジャイル開発のノウハウが溜まったら、それらをグループ各社のIT・情報システム部門に還元していくという実験的な役割も帯びています。
―グループ全体では幅広い事業をされていますが、PoC・開発のテーマはどのように決まっていくのでしょうか。
細氏:既存の保険事業であれば、その基幹となるシステムはすでに確立されており、システム子会社が管理・保守運用しています。私たちの主な活動領域はこれらいわゆるSoRの領域ではなく、顧客視点を意識しなければならないSoE領域としています。
例えば新たな顧客体験創出という観点で従来にはなかったサービスであるLINEのチャットで海外旅行保険の加入申し込みができるプロダクトやLINEで保険の証券管理ができる「証券BOX」をリリースしています。保険会社が単独でアプリをつくってもなかなか使っていただけませんが、LINEというプラットフォーム上でサービスを提供することで、多くの方に手間なく使っていただくことが可能となります。
また、介護事業を行うSOMPOケアという会社は、2019年2月、デジタルの力で介護現場に変革をもたらすことを目的に研究・実証を行う「Future Care Lab in Japan」という施設を開所しましたが、この開所式でお披露目した自動運転車椅子は、われわれSprintチームで開発したものです。LIDAR等を組み込んで完全自動化を実現したプロトタイプで、メディアにも注目していただきました。
なお、グループ会社のニーズに応じたものでなく、われわれからグループ会社に対して、デジタル技術によるソリューションを提案するプロダクトも開発しています。その1つが、台風による被害規模の推定を地図上に可視化する「台風被害推定ビジュアライゼーション」です。
台風が来て水害などの被害が出ると、保険会社は被災地に赴いて被害状況を調査します。その人員をどこにどの程度派遣すればよいかを、可視化された被害推定規模によって判断できるようになるのでは、という意図で開発しました。
SOMPO Digital Labでは年に3回ほど、「安心・安全・健康に資する最高品質のサービス」の提供につながるビジネスやサービスのアイデアを出し合うビジネスアイデアソンを実施しており、今後、自ら課題・問題を見つけてデジタル技術基点でソリューションを提案するケースを増やしていきたいと考えています。
3. SOMPO Digital Labが求めるデザイナー/エンジニアとは
―DXを推進する組織にはどのような人材が求められるのでしょうか。
細氏:私たちSprintチームの場合は、管理、企画、チーフデザイナー、チーフエンジニア、スクラムマスターという5つのポジションがありますが、その中でも実際に手を動かしてサービス・プロダクトを創り出すチーフデザイナー、チーフエンジニアの層を厚くしていくことが必要です。
原田氏:ここで言う「デザイナー」とは、サービス全体のデザインがその仕事です。チーフデザイナーは、デザインの最上流から下流まで全てのフェーズにおいて自ら手を動かし、派遣・フリーランスのデザイナーとともに、デザイン責任者としてプロダクトのデザインをまとめ上げる役割を担います。
プロジェクトは、多くの場合グループ会社・事業部などのビジネス部門が持っている企画や、まだ企画ともいえないようなふわっとした構想を受け取るところから始まります。そして、ビジネス部門の担当者とコミュニケーションを取りながら、ユーザーの特定、課題・要求を明確化した上で、サービスのコンセプト作成、UX設計、プロダクトのUI設計までを行います。
これら一連のことを実践する上で、HCD・UCD・CXDに関する豊富な経験が必要ですし、デザイン思考のマインドがしっかり身についていて、開発プロセスにおけるあらゆる判断を「ユーザー中心」にできることも重要です。
また、ステークホルダーの中にはデザイン的な思考に慣れていない人もいますので、仕事の進め方や「なぜこうなるのか」を、時にエビデンスを用意し、ロジカルに説明して納得してもらいながらプロジェクトを前に進めていかなくてはなりません。その意味で、クライアントワークでも事業会社での経験でもいいですが、幅広い人との関係の中でデザインをしてきた経験が求められます。
―エンジニアについては、どのような人が求められるでしょうか。
阪氏:Sprintチームのチーフエンジニアは、ビジネス部門のニーズに沿ったプロダクト制作の責任者という位置づけです。チーフデザイナー同様、自ら手を動かすのと同時に、派遣・フリーランスのデザイナーやエンジニアを束ねてアジャイル開発でプロジェクトを運営できる人が求められます。
PoCのための開発というと、おもちゃのような簡単なモックアップをつくることをイメージされるかもしれません。しかし私たちがつくるのは、ベータ公開して実際のユーザーが使用し、評価してもらえるMVP(Minimum Viable Product)レベルのものです。
規模の大きな組織であれば、インフラ、バックエンド、フロントエンドと担当が分かれていますが、Sprintチームでは、プロジェクトは社員であるチーフエンジニア1人に全て任せられます。スクラッチでWebアプリやネイティブアプリを1人でつくり、公開するところまで持っていけなければなりません。
そのため、要件定義から設計、開発、テスト、運用・保守まで一連のシステム開発経験が必要です。保険会社ではセキュリティに厳重な配慮が必要なため、専任のインフラ担当エンジニアはおりますが、アプリケーションレイヤーに近い部分のインフラの構成は自分たちで構築するため、AWS/GCPなどのクラウド、サーバレスの知識・開発経験も必要です。
上記のような責任範囲を求められるため、SIerやITコンサルなどでPMOに特化した経歴の方、つまり設計やコーディングなどの開発実務経験がない方は適応が難しいかもしれません。また、プロジェクトマネジャーとしての役割を担うには、ビジネス部門との折衝も難なくできる人が望ましいですね。
細氏:JACさんとは年に何度か直にお会いしてわれわれの要望をお伝えする機会がありますが、それにマッチする人を定期的に推薦していただいており、非常に助かっています。今年もJACさんにご紹介いただいた方がチーフエンジニアとして入社しました。
4. SOMPO Digital Labの職場としての魅力と今後の展望
―Sprintチームは設立して約2年にもかかわらず、アジャイルやデザイン思考を取り入れた開発を次々に進められていますね。
細氏:われわれが数年の間に、数々のプロダクトを開発し、組織を拡大してこられた背景として、CDO(Chief Digital Officer)の楢﨑浩一の存在が大きいと思います。楢﨑は以前、三菱商事に勤務し、シリコンバレーに駐在していた人物です。その後現地で転職し、複数社のスタートアップの立ち上げや経営に携わった後、SOMPO Digital Lab の立ち上げと同時にSOMPOのグループCDOに着任しました。
楢﨑は、開発だけでなく企業経営そのものをアジャイルに進めなければいけないという考えの持ち主であり、そのトップの考えが組織にしっかりと浸透していることが、今のSOMPO Digital Labのイノベーション組織らしい働き方を形作っていると言えるでしょう。
SOMPOグループは、いわゆる「3メガ損保」の一つではありますが、損保あるいは保険会社であることを私たちはあまり意識してはいません。損保事業だけでなく多角的に事業を展開するSOMPOグループには、社会課題に直結するテーマが数多くあります。そのような幅広いテーマに、自分たちの意志で取り組んでいけることが、SOMPO Digital Labの魅力だと考えています。
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- 担当コンサルタント
- 長谷川 達也
- 主に金融機関におけるテクノロジー領域の採用支援を担当。
情報システム部門に関連したポジションはもちろん、DX部門におけるビジネスデザイナー、リードエンジニア、UI・UXデザイナー、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ等幅広い職種の採用支援を行う。
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