採用企業インタビュー
優秀な社員を外に放つ、サムスン「C-Lab」に学ぶ新規事業の育て方
サムスングループ
CES 2020で発表されたC-Labのプロジェクトメンバーによるプロダクト郡(出典:Samsungのプレスリリースより)
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすという中国の故事があるように、
試練を与えて、能力を試すというプロセスは企業の人材育成や事業開発にも当てはまります。
今回は韓国を代表するコングロマリットであるサムスングループが手掛ける新規事業創出プログラム「C-Lab」をテーマに、
新規事業開発における人材活用のポイントを紹介します。
優秀な人材を惜しむこと無く外に出す「C-Lab」
サムスングループといえば電子部品、電子製品や薄型パネルや電池のグローバルサプライヤーであり、総合家電メーカーとしてもお馴染みの企業です。
近年ではIT事業を手掛けるサムスンSDSを通じて、ブロックチェーンを活用した決済ソリューションや認証システムを構築し、金融分野におけるDXに積極的に投資しています。テクノロジーへの投資と並行して、社内から新規事業を創出する仕組み作りにも本腰を入れています。2012年から開始した事業創出プログラム「C-Lab」(発足当初はC.Lab)はサムスングループの社員から新規事業のアイデアを募り事業化を支援しています。
ビジネスアイデアをグループ内から定期的に募り、倍率1000倍という厳しい審査をクリアすると、応募した社員は、それまでの業務を全て止めて新規プロジェクトにフルコミットで携わります。約1年間のプロジェクト期間中はグループ内の社員からプロジェクトメンバーを採用し、試作開発と並行して事業計画を具体化する作業に集中します。
プロジェクト期間中はCESなど世界的な家電見本市に出展し、製品化の可能性や世界中から集まるバイヤーからアドバイスを収集するなど、実際の事業さながらの検証を行います。最終的にはサムスンの経営層が継続可否を判断し、プロジェクト終了、グループ内での事業化、出資した上でスタートアップとしてスピンアウトの3パターンでプロジェクトを終えます。
事業化に至らなかった場合には、再びサムスンの社員として復帰しますが、スタートアップ企業同様のスピード感で事業開発にフルコミットする経験は、社員にとっても企業にとっても大きな資産となり、新たなサービス開発の中核人材として活躍が見込まれます。これまでに実施されたプロジェクトは250件以上を超え、1000人以上の従業員がプロジェクトに参加しています。45社がスピンアウトし、社外から4500万ドルの資金調達に成功しています。
日本でも販売されている腹囲測定機能付きのスマートベルトを開発するWELTや、日本ではキヤノンが販売している360度カメラLINKFLOW、画面から映像が飛び出るような演出ができるモニターを開発するMOPICなど、数々のスタートアップ企業を輩出しています。
2020年1月に米ラスベガスで開催されたCES2020では、スマートフォンのフロントカメラを利用し、指の動きを検知して仮想キーボードとして動作するアプリや、紫外線量を計測・記録できるデバイス、頭皮を撮影した写真をAIが機械学習し、抜け毛予防に役立つアドバイスを提供するIoTデバイスなど、幅広い領域のプロジェクトが出展されました。
優れたスタートアップ企業を生み出すためには、多産多死を前提にした投資が不可欠だとされています。こうした弛まない努力とチャレンジを許容する文化が、サムスンのスピード感の源泉にあるのかもしれません。
事業部ナンバーワン人材がスピンアウトしてもOK
C-Labにチャレンジするのは、どのような社員なのでしょうか。筆者が2019年に韓国ソウルで取材したC-Lab出身のスタートアップWELTの事例を紹介します。
WELTはバックル部分にセンサーを搭載し、ペアリングしたスマートフォンで腹囲や歩数、消費カロリー、座っている時間などのデータを記録/閲覧できるスマートベルトです。2017年にファーストモデルを発表し、現在は高齢者の転倒防止機能を備えたセカンドモデルを発表しています。
創業者のSean Kang氏はアメリカで医学を学んだ後に、韓国政府内の保険政策機関を経て、サムスン電子のヘルスケア部門に入社。当時、数千人いたヘルスケア部門で唯一の医師免許保有者という異色の人材でした。
Kang氏がWELTのアイデアをC-Labに持ち込んだのは2014年。
厳しい倍率をパスして採択されると、ヘルスケア部門の仕事から離れ、製品化にフルコミットします。その後、2016年のCESに試作品を出展したところ、世界各国のメディアに取り上げられたことが功を奏し、正式に事業化が決定。
創業メンバーらの希望もあり、サムスンが資本金の10%を出資してスタートアップとしてスピンアウトすることになりました。
サムスンにとってはエース級の社員にも関わらず、ビジネスに可能性があれば積極的にスピンアウトを勧めるサムスンの姿勢には驚かされます。
「守り」の部分は大企業が支援する
スタートアップにとって、製品の量産化は容易なことではありません。外装の設計や内部の基板、プログラムの開発、バッテリーの膨張や放熱対策、安定的な部品の供給や組立工場の手配など、それら一つ一つのプロセスをノウハウや経験なしに進めることは不可能といっていいでしょう。
C-Labに採択されたプロジェクトは、事業開発こそ与えられた予算でプロジェクトメンバーが主体的に進めるものの、開発や製造面では経験豊富なサムスンのバックアップを受けることができます。スタートアップにとっては最も荷が重い工場での量産も、サムスンの製造部門や品質管理部門がサポートすることで、大企業品質の製品を世に出すことができるわけです。実際、WELTでも最初の試作機ではバッテリーが1日も持たなかったそうですが、サムスン本体のサポートを受けた結果、1回の充電で1ヶ月程度使用できるようになりました。
このように事業開発はスピードがあり、軌道修正など小回りが利く少人数の組織で進め、製品の品質や製造など品質を絶対に落としてはいけない守りの部分は大企業のアセットを活用するという組み合わせは新規事業においては非常に有効です。
大企業の事業部で進めてしまうと、意思決定に時間がかかり迅速に進めることが難しくなります。C-Labはそうした「大企業病」を回避する枠組みを用意することで、1年で30件以上のプロジェクトを回し続けることを可能にしています。
更に2016年からはC-Labの取組を社外のスタートアップ企業にも広げた、「C-Lab Outside」をスタートしました。採択企業は最大1億ウォン(約920万円)の資金援助と1年間無料で利用できるコワーキングオフィスの提供に加え、専門家によるメンタリングなどのサポートが受けられます。これまで100社近い企業を支援し、コーポレート・ベンチャー・キャピタルとして積極的にスタートアップを支援する姿勢をアピールしています。
日本企業がC-Labから学べること
―スピード感と品質の両方を担保する仕組
C-Labに採択されたプロジェクトは1年間という限られた期間で市場性を証明する必要があります。大企業における新製品開発や事業開発は複数年をかけて進めることが基本ですが、それではスタートアップ企業との競争には勝てません。
プロジェクトの関与は最低限に留めることで事業開発は高速に進め、一方で製品の安全面やセキュリティなど品質管理はサムスン本体が担保するという仕組は非常に理にかなっています。大企業にありがちな書類作成や進捗報告、複雑な承認フローを排除しながらも、大企業のアセットをフル活用できるからこそ、毎年大量のプロジェクトを世に送り出すことができるのでしょう。
―失敗を恐れない、恐れさせない体制
C-Labに採択されたプロジェクトのうち、およそ半数が既存事業部に移管され、20%弱がスピンアウトし独立企業として経営されています。スピンアウトした場合でも5年以内であれば、サムスンに「出戻り」できるなど、失敗した場合のケアも手厚いのが特徴です。大胆に事業化を進める一方で、失敗した場合でも帰る場所を用意しておくことで、チャレンジしやすい環境を用意していることは特筆すべきでしょう。
日本企業は投資や意思決定に慎重すぎる傾向があり、それが成長を留めている大きな要因になっているという指摘もあります。失敗も一つの経験と捉え、チャレンジする環境を用意するというカルチャーがイノベーションを生み出すためには重要だと、C-Labは示してるのではないでしょうか。
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