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経営リーダー育成企業ミスミ×澤円氏 世界で勝つためのリーダーシップ

株式会社ミスミグループ本社

イベントレポート

革新的なAIプラットフォーム「meviy(メビー)」で製造業に変革をもたらすミスミ。このサービスを牽引したのは、外資IT企業出身で現在常務執行役員を務める吉田光伸氏。 不可能と言われたサービスの実現への道のり、それを支える企業文化、ミスミの人材育成精神とは。

今回JAC Digitalアドバイザーの澤円氏と吉田氏の対談を通し、世界で勝つリーダーシップの真髄に迫りました。

*本記事は2024年7月23日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。また、文章表現を統一するため言い回しも変更しておりますのでご留意ください。

<登壇者・登壇企業紹介>

  • 吉田 光伸氏
    吉田 光伸氏
    株式会社ミスミグループ本社
    常務執行役員
    ID企業体社長
    吉田 光伸氏
    国内事業・海外事業・新規事業を経て、機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」(メビー)の立ち上げに関わる。meviyはものづくり日本大賞にて最高峰である内閣総理大臣賞を獲得し、国内シェアは4年連続No.1。製造業DXを牽引している。ミスミ入社前は、国内大手通信会社、外資系大手ソフトウェアベンダに籍を置き、インターネット黎明期からデジタルを活用した新規事業の立ち上げ・事業拡大に数多く携わる。
  • 澤 円氏
    澤 円氏
    株式会社圓窓
    澤 円氏
    元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険の IT子会社勤務を経て、1997 年、日本マイクロソフト株式会社へ。ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006 年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。2020年8月末に退社。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。2021年4月22日よりJAC Digital アドバイザー就任。

    現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界、自動車業界の第一人者たちとのコラボも、業界の枠を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicyパーソナリティ。武蔵野大学専任教員。 

1.製造業で世界最大の品揃えを誇るミスミ

吉田氏:ミスミを一言で言うと、「製造業のAmazon」と表現するのが適切かもしれません。製造業やものづくり産業において必要なあらゆる部品を提供しており、カタログ販売を業界に先駆けて導入し、イノベーションを生み出した会社です。  

ミスミ最大の特徴は、世界最大級の品揃えです。取り扱い点数は3000万点以上におよび、部品の材質、長さ、太さなどを組み合わせると、800垓(1兆の800億倍)ものバリエーションが可能です。また、受注生産に特化しており、注文を受けてから加工し、標準で2日以内に納品する確実短納期を実現。高度な生産システムとサプライチェーンを構築し、グローバル展開していることが強みです。お客様は32万社以上で、AppleやTeslaといったビッグアカウントも取引先に含まれています。

私自身の経歴ですが、もともとはIT業界に長く身を置いていました。インターネットが普及し始めた頃にNTTに入社し、新規事業の立ち上げを担当。その後、外資系企業のオラクルでも新しい事業の立ち上げに携わりました。ミスミに転職してからは、国内外の事業成長を経験し、現在は製造業のDXを推進する新規事業「meviy」の立ち上げを行っています。ITと製造業、そしてゼロイチが私のキャリアにおける3つのキーワードです。

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2.日本の製造業が抱える課題から生まれたmeviy

澤氏:製造業が今日本においてどれぐらいのインパクトを与えているか、またその取り巻く環境について、少し説明していただけますか?

吉田氏:現在の日本における製造業は、国のGDPの約2割を占める重要な基幹産業です。日本企業がグローバル市場でシェア6割以上を持つ製品が200種類以上あり、国際競争力が非常に高い。しかし、製造業界全体で人手不足が深刻化しており、特に中小企業では労働力の確保や働き方改革とのバランスが課題となっています。この課題に対応するためにも、DXに積極的に取り組む必要がある。これが今の製造業のフェーズと捉えています。

澤氏:人手不足の深刻さは凄まじいですね。この少ない人数でこの業務量を乗り切るには気合いと根性が必要、というような考え方がまだありますし。

吉田氏:1980年代のジャパンアズナンバーワン時代は労働力が豊富で、みんな長時間働くのが当たり前でした。でも今は違う。労働力は減っているし、働き方改革で一人当たりの就業時間も短くなっています。だから、「量から質への転換」が必要なのです。
ただ、古い習慣はなかなか変わらないもので、バリューチェーンの設計・調達・製造・販売のなかの、調達の領域ではまだまだ改善の余地があります。設計はCADで3D化され、製造も自動化やロボット化が進んでいるのに、調達はまだ紙とファックスの世界。信じられないかもしれませんが、アンケートを取ったら製造業でのファックス利用率が98%もありました。
せっかく設計がデジタル化されているのに、それを紙に印刷してファックスで送って、また電話で交渉するという非効率な工程を踏んでいる。つまり調達がボトルネックになっている。これが今の製造業の大きな課題だと思います。そこでミスミが立ち上げたのが、AIプラットフォーム「meviy」(メビー)です。

従来の調達方法では、図面作成から見積もり、発注、納品まで膨大な時間がかかっていました。例えば、1枚の図面を紙で作るだけでも30分から1時間もかかり、それをファックスで複数の業者に送って見積もりを取り、価格交渉をして、やっと発注。納品までに2週間、1つの部品を調達するのに1ヶ月もかかっていたのです。

でも、meviyを使えば、顧客側と生産側どちらにとっても革新となりえます。顧客側への革新は、「AI自動見積もり」です。お客様の3Dの設計データをそのままクラウドにアップロードするだけで、AIが自動で見積もりを出し、即座に価格と納期がわかります。一方生産側への革新は、「デジタルものづくり」。データから工作機械用のプログラムが自動生成され、注文と同時に工場で無人加工が始まります。
これにより、即時見積もりと最短1日出荷が実現可能になりました。つまり、従来100時間かかっていた作業が10時間で済むようになるのです。私たちはこれを単なる時間削減ではなく、「時間創出」と捉えています。この新たに生まれた時間で、人間にしかできない付加価値の高い仕事ができる。これこそが、日本のものづくり産業を強くする鍵だと信じています。meviyを通じて、製造業のボトルネック解消に貢献し、より創造的で競争力のある産業へと変革していきたいと考えています。

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3.人間が考えられることは実現できると信じて

澤氏:素晴らしいサービスですが、立ち上げに至るまでは容易ではなかったと聞きました。

吉田氏:こうしたサービスを検討した時、まだクラウドシステムかつブラウザ上での3Dデータ処理は一般的ではありませんでした。そうした高度な技術を扱えるエンジニアが少なかったのです。さらに、AIを組み込み、生産要件を確認しつつ製造工場とも連携するシステムは、当時のどの企業も作れなかった。私たちは国内のさまざまなベンダーさんに依頼しましたが、全て断られてしまいました。日本のベンダーさんは当社の企画を聞いて「want」も「must」もあったのですが、「can」つまり作れるノウハウとスキルがなかったのです。

澤氏:そうした状況をどのように打開していったのでしょうか?

吉田氏:私も長年「0→1」をやってきたので、「人間が考えられることは実現できる」という確信があります。イノベーションは知と知の融合、新しい組み合わせであると言われますが、私もそれを心に刻んで、今回の件にも取り組みました。
私たちが実行したのは通称「わらしべ長者作戦」です。自分たちがやるべきことは、ものづくりの社会インフラとして時間創出を実現すること。DXを行うことで、社会に大きな貢献とインパクトを与えたいこと。私たちのミッションである「ものづくりに創造と笑顔を」を通じて、人間にしかできない創造性を生み出していきたいこと。この思いを提げて世界中を回りました。
例えば、インドの会社を訪問したら「この領域はこの国のこの会社がいいのではないか」と提案してもらいその国を訪れる。またそこでも思いを伝え、適任企業を提案してもらう。まさに「わらしべ長者」のように、一つずつ、一人ずつ縁を広げていったのです。
ミッションや大義に共感してくれる仲間が少しずつ集まり、現在の形が徐々にでき上がっていきました。
活動を続ける中で感じたのは、「Why」がすごく大事だということ。世界中から優秀な仲間たちを集めるときも、みんなが惹かれるのは「Why」であって、「What」や「How」ではない。それは万国共通だとあらためて実感しました。やはり何かを実現する時、大義やミッションは重要です。

澤氏:実際稼働して、ポジティブなフィードバックがあったのでしょうか?

吉田氏:最初はボロボロでした。世の中にない仕組みで正解もないため、最初にリリースしたときはお客様から多くのフィードバックをいただきました。当時はアジャイル開発がまだメジャーではなかったですが、スクラムで開発し、毎週改善していました。価格や納期について多くのお叱りも受けましたが、スタートアップ的マインドで、試行錯誤しながらブラッシュアップを続けました。現在の形も、自分の目指す姿からはまだ2合目か3合目に過ぎません。完成がない製品であるため、今後もお客様の声を聴きながら、”時間創出”のためにさらに改善していく必要があります。

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4.経営リーダーを目指す人材も多い

澤氏:吉田さん自身も異業界からの入社ですが、吉田さんから見たミスミで働く魅力は何ですか?

吉田氏:一つは、経営リーダーを育成することに非常に力を入れている点です。経営リーダーになるためには、読み書きそろばんといった基本的なスキルから、さまざまなリテラシーが必要です。これらのスキルを身につけるための教育に多くの時間とリソースが投じられています。経営トップ自らが教壇に立ち、全社に対して教育を行うスクールもあります。経営リーダーを目指してミスミの門を叩き、その教育制度を通じて成長していく社員も多いですね。

澤氏:外部人材も多いですか?

吉田氏:多いです。IT、商社、コンサルなど多種多様なバックグラウンドを持っている人が揃っています。それこそ、起業したものの「もう一度経営を学び直したいから」という理由で入社する人もいます。

澤氏:ミスミさんのように日本本社の製造業の話を聞いていると、日本がヘッドクオーターの良さは大きいですよね。

吉田氏:私も以前は外資系企業で働いていましたが、ヘッドクオーターで作られた戦略を実行する役割が主でした。一方ミスミはグローバル企業であるにもかかわらず、自分たちが戦略を立案し、実行までの全責任を持つというダイナミズムを感じることができる。この責任感と共に、自分たちが会社の未来を切り拓いているというやりがいを強く感じます。

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5. 成長連鎖経営を根幹に、何事にも挑戦してほしい

澤氏:ミスミで活躍するうえで必要なことは何でしょうか?

吉田氏:先ほどお話ししたとおり、ミスミは業種を問わず、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れています。もちろん、製造業の経験や知識はアドバンテージになりますが、それよりも重要視しているのは「成長連鎖経営」の理念を理解し、実践できることです。成長連鎖経営の起点は社員であり、社員が挑戦することが会社全体の成長につながります。社員が挑戦し、その挑戦が成功し、さらに新たな挑戦を生むという循環を生み出すことが重要。このような挑戦意欲を持ち、何事にも積極的に取り組む姿勢がチャンスにつながります。

求める人物像としては、「商売人感覚」を持った人材です。私たちはビジネスを行う会社であり、商売を成功させるための感覚や商売人根性があるといいです。

澤氏:面白いですね。ミスミで視点が変わるチャンスになるかもしれませんね。

吉田氏:最近始めた取り組みである、ネクストチャレンジ制度も活用してもらいたいです。いわゆる社内転職を可能にした制度なのですが、経理から事業部門への異動や、国内から海外への部署変更など、自由に手を上げて新たなポジションに挑戦することが可能です。誰でも挑戦が認められれば、面接を経て新しい役割に就くことができます。バッターボックスに立つ回数も多いので、社員にも、これから入社をする人にも、その醍醐味を感じてもらいたいと思います。

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6.質疑応答

Q. BtoB事業のデジタルマーケティングを行う中で、どのような戦略・戦術を意識していますか?

A.吉田氏:私たちは、単に「How(手法)」から入るのではなく、「Who」と「What」を徹底的に理解するよう努めます。つまり顧客を深く知ること。設計者やデザイナーなど、さまざまな属性を持つ顧客セグメントごとに、そのニーズや課題を分析し、最適なアプローチを選択します。「良い製品を作れば売れる」時代は終わり、いかに製品を認知させ、スケールさせるかが重要です。当社もこの複雑化した市場環境に適したマーケティング戦略を実行しています。

Q. 今回の新規事業の立ち上げを後押しした要因として、一般社員にも浸透しているようなミスミならではの文化はありますか?

A.吉田氏:「顧客時間価値」という考え方は大事にしています。時間創出にフォーカスしたmeviyも最終的に顧客時間価値に繋がるように設計されています。時間をいかに有効に操るかを考えることが私たちの特徴です。コストや品質も重要ですが、時間に対するアプローチがミスミならではの文化といえるかもしれません。

Q. サービス立ち上げのタイミングや事業の基礎を作り上げるタイミングで、事業継続する際に対社内で苦労したことはありますか?

A.吉田氏:既存事業とはなるべく離したほうがいいと思いますね。小さい組織を作って成果が出るまで失敗を繰り返しながらやっていく。そういう意味では、ベンチャー企業も資金やアセット面で厳しい部分はありつつも、環境としてはやりやすいと思います。一方大企業は既に顧客基盤や資金、人材が揃っており、その条件でイノベーションを起こせば大きなインパクトになるにもかかわらず、そうした実績はなかなか出せない。そこには、既存の慣習や社内の抵抗によって新しい取り組みが潰される現実があります。そのため、まずは社内マーケティングが重要だと思います。事業やサービスが社内でどのようにプラスに進展しているかをしっかりとアピールしてほしいです。

Q. 日本の製造業は大半が中小企業であり、従業員が共通のベクトルを持っているとは言いがたいですが、従業員の意識を向上をさせる良い方法はありますか?

A.吉田氏:私が実践した方法はミッションをみんなで考えることでした。
meviyを立ち上げるにあたり、私もメンバー一人ひとりのベクトルを揃えることは重要だと捉えていました。個々のベクトルがバラバラだと、進捗が遅れたり、推進力が不足することがありますから。
自分の中に「こういうミッションにしたい」という思いはありましたが、トップダウンで決めたミッションでは浸透しにくく、腹落ち感も薄れてしまいます。最初に全員で話し合い、メンバーが「ミッションとは何か」「私たちはどこに向かうべきか」を自分ごととして考える。共通の目標やビジョンを共有することで、メンバーの意識も変えることができたかなと思います。

Q. 成長連鎖経営の核になっているような世代はありますか? もしくは、全世代が核となっているのでしょうか?

A.吉田氏:特定の世代にということはありません。あえて言うなら20代、30代に頑張ってもらえると会社が持続的に成長していくと考えています。
とはいえすべての社員に新しい挑戦を目指してもらい、成長連鎖経営の核となってほしいです。

Q. 先程meviyは2合目、3合目と仰っていましたがmeviyの完成形はどこにあるとお考えでしょうか。

A.吉田氏:具体的な方向性として、まずはプロダクトの進化を目指します。製品のサイズや素材、加工方法など市場ニーズに応える商品を拡充していきます。次に、アライアンスの強化です。オープンイノベーションを推進し、共同開発や協業していく。そして、グローバル展開を加速させたいです。日本から始まり、ヨーロッパ、アメリカ、アジアへの拡大を進め、世界中の顧客に価値を提供していきたい。ビジネスモデルも含め、まだ進化の途中段階かなと思います。

この記事の筆者

株式会社JAC Recruitment 編集部

株式会社JAC Recruitment

 編集部 


当サイトを運営する、JACの編集部です。 日々、採用企業とコミュニケーションを取っているJACのコンサルタントや、最新の転職市場を分析しているJACのアナリストなどにインタビューし、皆様がキャリアを描く際に、また転職の際に役立つ情報をお届けしています。

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