日立グループは、さまざまな事業領域のパートナーとともに、デジタル技術による社会イノベーションに取り組んでいます。現在、日立グループ全体の社員数は約37万人。これは、ほぼアイスランドの人口に匹敵する規模です。
そんな巨大なアセット活用ができる、日立流社会課題解決のカギを握るのは“協創”。デザイン、データ、ビジネスなど多角的な視点を掛け合わせたアプローチで、日立ならではの課題解決を実現しています。今回は、Lumada事業を推進する現場より、デザインストラテジスト、データサイエンティスト、ビジネスコンサルタントの3名が登壇。元日本マイクロソフト業務執行役員でJAC
Digitalアドバイザー 兼 日立製作所 Lumada Innovation Evangelistである澤円氏が、プロジェクト事例や日立で働く意義などについてうかがいます。
※ 本記事は2022年9月13日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。
―1.日立が解決するさまざまな社会課題
澤氏:今回のテーマは日立流の社会課題解決と協創です。さっそくですが、日立ではどのような社会課題を解決しているのでしょうか。
枝松氏:日立グループのお客さまには、鉄道会社や電力会社、あるいは行政機関など、社会インフラに関わる方々が多くいらっしゃいます。お客さま自身が移動手段や行政サービスの提供といった社会課題の解決に取り組んでおり、私たちはシステム開発などを通じてそのお役に立っているようなイメージです。
例をあげると、鉄道業界では車両の製作をはじめ、予約管理システムやデジタル掲示板のデザインから実装まで行っています。こうしたシステムがあることで、たとえば電車が止まった時に利用客が情報を把握しやすくなり、結果として駅員さんの苦労を低減できます。精神的な安定性をもたらすという意味では、これも一つの社会課題解決だと思っています。
幸左氏:私の実体験としても、小売業の売上アップからSDGsの文脈におけるガス排出量の削減など、さまざまな業務に取り組んでおり、日立がカバーする社会課題の範囲は幅広いと感じています。また、化学プラントの異常検知のために小型で精度の高いシステムが作れれば、その技術はヘルスケアデバイスにも適用できるといったように、開発したものをグループの中で横展開できることも日立ならではの特徴です。
石田氏:物流業界で配達員の健康のために働き方改革を実施し、効率的なオペレーションや業務の遂行が可能になれば、結果としてCO2の排出量も下がっているはずです。一つの課題を解決するための取り組みが、ほかのところにもつながっていくことは私も実感する部分です。
―2.現場で利用者の声が聞こえるプロジェクト
澤氏:これまでで印象に残っている仕事を教えてください。
石田氏:私たちはよく、インタビューやエスノグラフィー(行動観察調査)を通じて現場の声を聞いています。それらを整理し、ワークショップを通じて合意形成を図ったうえで生まれたプロトタイプをお渡しして、「これが欲しかったんだよ!」と喜んでもらえたときには、うれしくて痺れました。前職ではずっと社内でデザイン業務をしていたので、現場の方からフィードバックをもらえる機会がありませんでしたから、あの瞬間のことはよく覚えています。
幸左氏:複雑な製造プロセスを解析して、最終生産物のクオリティを上げたいというお客さまがいらっしゃいました。膨大なデータで調査するパラメータも多かったのですが、プロセスやフェーズを整理し、因果関係を突き止めて説明したところ「それは今まで気付かなかった新しい視点です」とコメントをいただき、とても喜んでいただけました。
澤氏:誰のために、何のためにものを作っているかが実感できて、実際に喜んでいただけるのは、仕事人として一番うれしいことですよね。日立は素材に近いところから複雑な工業製品まで、一気通貫で保有しているので、どんなレイヤーにいる人たちもそうした実感を得られるのは、一つの特徴ですね。
幸左氏:そうですね。日立はものづくりの会社でもありますし、研究所としての蓄積もあるので、そうしたナレッジがプロジェクトの成功要因にもつながったと思います。
澤氏:日立には博士号を持った、よい意味でとても“変な人“たちの集まり(※)があり、そのような方々が技術を下支えしています。そこで生まれたアイデアが組織や制度に反映され、しっかりプロダクトやサービスとしてお客さんに届いていくことも、日立の魅力だと思います。
※日立には「日立返仁会」という博士号の学位を有する者(在籍者とOB)の集まりがあります。
日立創業メンバーの一人である馬場粂夫(くめお)博士が、後進の育成にあたり博士号の取得を奨励したことに端を発しています。馬場博士の持論「凡人、才子にあらず変人たれ」ということばから「変人会」と称しましたが、1959年に現在の「日立返仁会」に改称されました。
詳細はこちらをご参照ください。
―3.Lumadaはグループ37万人をつなぐ旗印
澤氏:僕は日立グループのLumada(※) Innovation Evangelistを勤めていて、Lumadaは日立グループ37万人が一緒になるための旗印だ、という説明をよくしています。社内からはどのように見えていますか?
※Lumadaは、“Illuminate(照らす・解明する・輝かせる)“と“Data(データ)“を組み合わせた造語。お客さまのデータに光をあて、輝かせることで、新たな知見を引き出し、お客さまの経営課題の解決や事業の成長に貢献していく、という思いを込めています。
(日立 Lumada 公式サイトより引用)
枝松氏:LumadaはもともとIoT等を中心とした事業のコンセプトでしたが、徐々に範囲や解釈が広がって、今はデータから価値を生み出すデジタル事業全体を指すブランドになったと感じています。グループ全体が注力する強い事業ブランドが打ち出されたのは、少なくとも私が入社してからは初めてのことでした。リーマンショックの打撃の後、事業およびグループ再編が進むなかで、Lumadaというキーワードが一つのまとまりを生んでいる感覚があります。
幸左氏:DX推進やAI導入といった仕事をする際には、やはりLumadaという旗印を意識します。社会全体でのインパクトや、お客さまのビジネスをどのように変えられるかという点も、より深く考えるようになりました。
石田氏:Lumada Innovation Hub Tokyoの活動では、社内のみならず、社外のパートナーやお客さま同士をつなぐようなケースもあります。本来ならつながらなかった人たちの間にも、Lumadaというキーワードを通じた関係が生まれています。
澤氏:日立グループには37万人もの社員がいて、それぞれが独立性の高い事業に取り組んできました。今はLumadaという旗印を掲げ、仲間としてすぐに動けるような体制や制度を再構築している最中なのですね。
―4.異業種&多分野で働くメリットとデメリット
澤氏:会場からの質問に答えていきましょう。「異なるバックグラウンドの人が活躍することのメリットや、逆に大変なこと、デメリットなどあれば教えてください」とのことですが、いかがでしょうか。
幸左氏:コンサルティングを専門にしているチームとやりとりをすると、やはり経済の動向や法的知識の詳しさには驚かされます。逆に、システムの作り方や価値提供のフローなどは、私のデータサイエンティストとしての知見が役立つ部分もありました。バックグラウンドによって視点も知識も異なるので、それが多様であればあるほど強みになるのではないでしょうか。ただし、新しい相手と仕事を始める際には、会議の進め方や資料の作り方など、最初のすり合わせに多少時間がかかる印象です。
石田氏:
前職ではデザイナー同士で働いており、前提知識が揃っていたのですが、転職してすぐのころは、エンジニア系の方々との共通言語がなく、コミュニケーションの取り方に悩んでいました。その後、プロジェクトを通じて皆さんの考え方やスキルセットを理解したことで、話し方も徐々に会得していきました。今では互いの得意分野でギブアンドテイクできるようになったので、コミュニケーションパスが開通した後のメリットは大きいと思います。
澤氏:ありがとうございます。「社内での派閥やいがみあいがなく協力し合える社風は、どのように作り上げられているのでしょうか?」という質問も来ています。日立で15年以上働いている枝松さんにお答えいただけますでしょうか。
枝松氏:日立で働く人たちは皆、自分たちが作っているシステムや仕事が、どのように社会に貢献しているかを意識しています。たとえば空港で使われているシステムなどは、何かあった時の影響がとても大きいですよね。自分がしている仕事の影響力の大きさや、誰かを助けて社会に貢献するという目的を共有できていることが、バックグラウンドや立場の違いを越える一つの原動力になっていると思います。
澤氏:自分たちが利用者でもあるものに関わっていると、普段から仕事のゴールが目に入ってきやすいですよね。
枝松氏:そうですね。日立で働いていると、仕事と社会が直結していることを実感するチャンスが多いと思います。
―5.転職先としての日立
澤氏:幸左さんと石田さんは転職組ですよね。日立は最初からキャリアの選択肢に含まれていたのでしょうか。
幸左氏:データサイエンティストを志願するなかで、いろいろなハッカソンやイベントに参加していたときに、たまたま日立の社員の方と一緒になりました。その方の分析手法やロジカルさ、親切な説明に感銘を受けて関心を持ちました。あまり転職で入る会社という認識はなかったので、中途の方が多いと聞いた時には驚きました。
石田氏:私も転職先としては意識していなかったのですが、UXデザインに力を入れているチームがあることをWebで知って興味を持ちました。グループ全体としての領域も幅広いので、ここならどこか自分とマッチするものが見つかるのではないかと思い、まずは何でもある日立に入ってみようと決めました。
澤氏:僕もよく、日立を「発電所から鼻毛カッターまである会社」と紹介しています。プロダクトの種類だけでなく、コンサルティングや間をつなげるシステムさえグループの中でカバーしているのは、すごいことですよね。アセットの豊富さは、やはり働くうえでの大事な要素になると思われますか?
石田氏:前の職場ではスキルが暗黙知になっている部分が多かったのですが、日立では各所で教育のような取り組みが盛んに行われています。私が所属する部署では一定期間でデザインシンキングの方法を学べますし、データサイエンティストのチームにも教育体系が整っています。会社が持つ大きなアセットに触れ、自分にインストールできる機会は非常に豊富だと感じています。
―6.変化に柔軟で、きっちり取り組む日立らしさ
澤氏:最後に日立の社風についてうかがいます。僕は役員の方とお話をさせていただく機会が多いのですが、皆さん優しいし、なにより頭が柔らかい。自分の仕事を限定することもなく、年齢に関わらず何ができるかを考え続ける人ばかり、という印象があります。
枝松氏:同じことの繰り返しを好まないのは、弊社の企業文化です。変化に対して硬直的でいると、「まだそんなことをしているのか?」と上司や同僚からも指摘されますし、常にチャレンジすることが当たり前になっています。
石田氏:日立で働く人は仕事に真面目だし、本気の人が多いというイメージです。コンサルタントやエンジニア、デザインストラテジストなどバックボーンの違う人が集まっているので、どうすればコミュニケーションがよくなるのか、目的からしっかり定めて社内イベントを企画したりしています。
幸左氏:技術に思い入れが強く、情熱的な方が多いと感じます。社内の勉強会も、毎回非常に盛り上がっています。