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私たちはどんな課題を解くのか?~ポストコンサルキャリアセミナー~

※このウェビナーは2024年5月8日に実施しました。なお、所属・肩書は当時のものとなります。
イベントレポート

JAC Recruitment(以下、JAC)では、「ポストコンサルのキャリア」をテーマにしたウェビナーを開催。コンサルティングファームでの経験を経て、現在は事業会社でビジネスを推進している3人のゲストをお迎えし、転職の経緯、現在取り組んでいる課題、事業会社で感じられる面白みや価値についてお話しを伺いました。本記事では、当日語られた内容の一部を再構成してお届けします。

*本記事は2024年5月8日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。また、文章表現を統一するため言い回しも変更しておりますのでご留意ください。

<登壇者・登壇企業紹介>

  • 近安 理夫氏
    近安 理夫氏
    アサヒグループホールディングス株式会社
    エグゼクティブ・オフィサー Head of IT & Transformation
    近安 理夫氏
    滋賀大学経営学部卒業、シカゴ大学 経営学部卒業(MBA)。1990年アクセンチュア株式会社入社、マネージャー、パートナーを経て、2006年、Business Integrationチーム(約350名)の代表パートナーに就任。2010年HOYA株式会社(シンガポール)情報・システム・業務改革最高責任者。2016年大学講師(慶應大学、武蔵大学、企業研究、友人のスタートアップ支援などの充電期間)。2018年、カルソニックカンセイ株式会社 グループ業務改革推進本部長兼常務執行役。2020年10月より現職。
  • 佐藤 健次氏
    佐藤 健次氏
    株式会社Hacobu
    執行役員 CSO
    佐藤 健次氏
    アクセンチュア株式会社において、サプライチェーングループのマネジメントとして、数多くの改革プロジェクトをリード。その後、ウォルマート・ジャパン /西友にて、eCommerce SCM 、補充事業、物流・輸送事業、BPR(全社構造改革)の責任者を歴任。当時の日本における物流責任者として、各国のリーダーおよびパートナーと物流革新を推進してきた経験を持つ。日本の物流変革の必要性を体感し、株式会社Hacobuに参画。
  • 垣畑 陽氏
    垣畑 陽氏
    株式会社テックタッチ
    執行役員 VP of Customer Success
    垣畑 陽氏
    2006年、株式会社商船三井に入社し営業や経営企画に従事。その後マッキンゼーに移り、新規事業戦略から生産現場のカイゼン活動まで幅広く関わる。2020年、経営戦略から現場のプロセス構築まで自由に実践できる場を求め、株式会社テックタッチへ転職。
JAC:まずは登壇者の皆さまのプロフィールと、現在取り組んでいる課題をお話しいただきます。

複数の大手メーカーで改革を推進/近安 理夫氏

JAC:近安さんは20年間コンサルティングファームに勤めた後、複数のメーカーを経験されていますね。これまでのご経歴と現在の取り組みをお聞かせください。

近安氏:1990年から20年ほど、アクセンチュアに在籍していました。プロジェクトを最初から最後まで自分の手で行い、会社を変えるところまでを実現したいと考えて事業会社への転職に踏み切り、HOYA、カルソニックカンセイで業務改革を推進しました。

2020年からはアサヒグループホールディングスで、DX=BX(ビジネストランスフォーメーション)を推進しています。取り組む領域は3つあります。まず「プロセス・イノベーション」では、グローバルでの生産性向上および新たなビジネスモデルにも柔軟に対応できる基盤構築、全体オペレーションの最適化を図っています。次に「ビジネス・イノベーション」では、お客さまの「期待を超えるおいしさや楽しさ」を実現するパーソナライゼーションモデルの構築を目指しています。例えば、居酒屋にAIカメラを設置して消費動向をつかみメニューの開発や構成の工夫につなげるといった施策です。「サステナブルな生活の実現」のテーマでは、お酒の飲み過ぎを防ぐため、「酔いを見える化」するウェアラブルデバイスアプリの開発、サプリメントをその日の体調や栄養バランスに合わせて選べるパーソナライズドサプリメントビジネスの開発などを進めています。

この2つの実現に向けて必要なのが、「オーガナイゼーション・イノベーション」。未来の働き方、ありたい組織の姿として「デジタルネイティブ組織」を掲げ、具体的にどのような姿なのかの言語化・具体化に取り組んでいます。

JAC:特に重要な課題と捉えて力を入れているのはどのテーマなのですか。

近安氏:オーガナイゼーション・イノベーションによる「IT/データ活用の民主化」です。従業員全員がデジタルネイティブになることです。デジタルの知見を身に付けた従業員たちが、「AIが自分たちの仕事にどう影響するか」「お客様の行動をどう変えられるか」といったことを考え、「では、こんなことにトライしよう」と主体的に推進していけるようになること。そして、失敗をどんどん繰り返しながらいいものを作っていくという、アジャイルな働き方のマインドセットを浸透させたい。そうした動きができるために、ピラミッド型の組織構造を変えていくことを課題としています。

従業員一人ひとりが自分で考えて行動することができれば、エンゲージメントや満足度も高まるし、楽しく仕事ができるでしょう。そんな姿を実現できれば、アサヒグループホールディングスでの私の仕事は完了し、次のステージへ行きます。

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グローバル企業を経てスタートアップへ/佐藤 健次氏

JAC:佐藤さんもアクセンチュアを経てグローバル企業に転職し、現在はスタートアップの執行役員CSOとして活躍されています。その経緯と現在の取り組みをお聞かせください。

佐藤氏:アクセンチュアではサプライチェーングループのマネージングディレクターとして、数多くの改革プロジェクトを手がけてきました。転機となったのは2011年の東日本大震災です。「実業で日本に貢献したい」という思いが強くなったタイミングで、西友との出会いがありました。ウォルマートのサプライチェーンがすごいと聞いていたので興味を引かれ、2012年に入社。ウォルマート・ジャパン /西友にて、eCommerce SCM、補充事業、物流・輸送事業、BPR(全社構造改革)などの責任者を務めました。その経験の中で日本の物流変革の必要性を体感したことから、2019年、「運ぶを最適化する」をミッションとする株式会社Hacobuに参画しました。

物流業界は「経済界に残された最後の暗黒大陸」と言われています。日本の物流業界はアメリカなどと比べるとフラグメント(断片)、つまり小さなものがたくさん集積している状態ですので、投資が回っていなかったんですね。その課題に対し、HacobuのSaaS事業では比較的安価に導入できるツールとして、物流情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」を提供しています。日本国内におけるトラックドライバー数は約80万人と言われていますが、MOVOはすでに50数万人――3人に2人くらいは利用経験があるところまで普及しています。

私は当初、SaaS事業で営業的な動きをしていたのですが、経営者の方々と対話するなかで「この業界には圧倒的にコンサルティングスキルが不足している」と実感したんです。資金が潤沢ではない業界なので、コンサルタントの技術が入っていない。そこで物流業界にコンサルティングスキルを入れていこうと、コンサルティング事業「Hacobu Strategy」を立ち上げました。「気合・勘・度胸」のKKDロジスティクスから、「データ収集→分析→作戦立案→実行」のサイクルを回していく「データドリブンロジスティクス」への転換にチャレンジしています。

JAC:特にどんな課題への取り組みに注力しているのでしょうか。

佐藤氏:日本の生産労働人口の減少は、ダイレクトに日本の物流業界に影響しています。商慣行の問題など、1社の取り組みだけでは解決できない課題に手をつけなければならないところまで来ています。ですから、近安さんもおっしゃったような「IT/データ活用の民主化」を業界全体で進める必要があると考えています。私たちの会社には、MOVOを通じてデータが蓄積されてきています。今年度は「物流ビッグデータ元年」と位置付け、そのデータを活用していきます。経済産業省・国道交通省・農林水産省などとも連携し、社会最適を実現するやり方へ転換するチャレンジをしようとしています。

日本がさまざまな変革をしていくうえでは、データを活用して課題を見える化し、キーとなるポイントを変えていく必要があります。物流のネットワーク構造の変革と、物流リソースの統廃合をダブルで進めていくという難しい変革において、コンサルティングのスキルが必要とされていると感じています。

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事業会社・コンサルティングファームを経てスタートアップへ/垣畑 陽氏

JAC:垣畑さんはマッキンゼーを退職後、すぐにスタートアップに飛び込まれ、執行役員/VP of Customer Successのポジションで活躍されています。転職の経緯、現在の取り組みをお聞かせください。

垣畑氏:2006年に入社した商船三井で法人営業や経営企画を経験後、マッキンゼーに転職し、新規事業戦略から生産現場のカイゼン活動まで幅広く携わってきました。ある国内メーカーの新規事業立ち上げプロジェクトで、新しいビジネスを立ち上げていく面白さ、クライアントの方々の熱意に触れ、「自分も事業を自分の手で立ち上げたい、成長させたい」と思うようになり、転職を決意。経営戦略から現場のオペレーション構築まで幅広く自由に実践できる場を求めていたため、最初からスタートアップを念頭に転職活動を行い、2020年に株式会社テックタッチにジョインしました。

当社が提供するのは、Webシステム画面UIをユーザー企業に合わせてカスタマイズし、すべてのユーザーが迷わず・間違わずにシステムを使いこなすことができる世界を目指す「テックタッチ」というプロダクトで、デジタル・アダプション・プラットフォーム(DAP)と呼ばれるシステムです。システム稼働開始の前でも後でも、現場でシステムのUI/UXをノーコードで簡単に改善できるプロダクトで、大手企業からスタートアップ、自治体・官公庁まで幅広く導入され、3年連続国内シェアNo.1(※)を獲得。日本を代表する100社以上の大企業の社内DX(業務DX)の運用の現場を支援してきました。
※ 「ITR Market View:コミュニケーション/コラボレーション市場2023」デジタル・アダプション・プラットフォーム市場:ベンダー別売上金額推移および シェア(2021~2023年度予測)

私はカスタマーサクセス領域を管掌しているのですが、チームメンバーの役職は一般的なカスタマーサクセスマネージャーではなくコンサルタント職と呼んでおり、コンサルティングファームや大手SIer出身が中心で、要件定義から実装、運用まで成果創出のための支援を行っています。日本では「システム構築を外注に頼り過ぎ」と言われており、アメリカと比べると事業会社内のエンジニアの人数はおよそ3分の1しかいません。結果、外部の企業との見積もり~要件定義~設計~検収~修正までのプロセスが大変になってしまい、システム開発をアジャイルにやりづらい。これを支援するのがテックタッチで、業務領域の親和性からコンサルタントの知見が直接生かせる機会が多いです。

JAC:カスタマーサクセスとして、どんな課題に向き合っているのでしょうか。

垣畑氏:DXではまずオペレーションの変革があり、社員の動き方を変えていって、最後にそれをシステムに落とし込むことで効率化なりデータ化なりの目標が達成されます。しかし、この最後のシステム導入において、新たなシステムを導入しても、使い勝手が良くなければ現場がそっぽを向いてしまいます。例えば、営業の動きを変えたいのに、その前段階で「データ入力してくれない」「データ精度が低くて分析できない」といった状況に陥ると、期待した成果を創出することはできません。
一方で、使い勝手を良くする予算、時間の捻出は非常に難しいのが現状です。従業員向けシステムではシステム稼働開始の期日もあり、コストも限られていること、また要件が細かすぎることから、アドオン開発で使い勝手を担保できる余地も限られています。そんな課題に着目し、アジャイルにシステムを改善できるような支援を行っています。

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事業会社で働く面白み、得られる経験の価値とは

JAC:事業会社だからこそ感じられる面白み、得られる経験の価値についてお聞かせください。現在スタートアップに身を置いている垣畑さん、佐藤さん、いかがでしょうか。

垣畑氏:スタートアップは事業自体がまだ小さく、狙う市場を選びたい放題です。リソースが限られている分、どこに攻めるか、どんなプロダクト、サービスにするかを社長と一緒に決めていける面白さがあります。
また、そこに向けて組織も作っていかなければならず、自分でジョブディスクリプションを書いて採用も行う。「この人が来てくれたらチームの屋台骨になってくれるけれど、もしコケたら自分もコケる」――そんな切迫感と覚悟を持って仲間を集めています。そのようなことも含め、事業を創り組織を創っていく「手触り感」は、やはりスタートアップの魅力だと感じます。

佐藤氏:垣畑さんと同様、私も今のスタートアップで「手触り感」を強く感じています。新しく事業を立ち上げていく面白さが当然あって、もちろん大変ではあるけれど、若い方にとっては大手コンサルティングファームで大規模プロジェクトのPMをやっているよりは絶対的に楽しいと思います。

また、日本ではスタートアップに対する投資が奨励されていることから、企業の経営陣とお話しできる機会が多いです。私の場合、コンサルティングファーム在職時代には3カ月に1回ほどしかお会いできなかったような方々に、週に2回はお会いして、今後の戦略について対話できています。

JAC:一方、近安さんはアサヒグループホールディングス、佐藤さんはウォルマート・ジャパン /西友という大規模な事業会社を経験されています。そのようなステージで事業を推進する醍醐味はどこにあるのでしょうか。

近安氏:日本全国には80万ほどのレストラン・居酒屋・バーがあり、そのうち20万ほどに「アサヒスーパードライ」のビールサーバーが入っています。この「顧客ベース」を保有しているのは非常に強い。そのアセットに自分のアイデアを流し込んでいく面白さがあり、それによって世の中に革命を起こしていける可能性があるのです。

それはスタートアップでも、佐藤さんのHacobuのようにトラックドライバーの3分2をデータ取得対象として獲得している企業も同様だと思います。その基盤はGAFAにだって作れないし、日本全国の最適化を実現し得るアセットを握っているわけです。DAP市場でシェアNo.1の位置にいる、垣畑さんのテックタッチにも同じことがいえるでしょう。

私は自分で描いた絵を実現させるため、周囲を説得してきました。役員一人ひとりと飲みながら話し、経営会議でも話し、ときには罵倒すらしました。コンサルタントの立場で役員の罵倒まではできないですよね(笑)。でもパッションがあれば通じるんです。当然リスペクトがあることが前提ですが。とにかく、ありとあらゆる手を打てるのは事業会社の内側にいてこそでしょう。

もう一つ、アクセンチュア在籍時代にはアクセンチュアのサービスラインしか知りませんでしたが、今はPwCやマッキンゼーなどのノウハウも得られます。アカデミアとのつながりも含め、情報ソース、アイデア、事例の知見は広がりましたね。「20年でコンサルはやり切ったな」と思っていましたが、井の中の蛙でした。「コンサルでもずいぶん違うな」「こんな世界があったんだ」「裏側はこうなっていたんだ」など、初めて知れたことがたくさんあって、そこにも面白みを感じています。

佐藤氏:ベースのスキルを得るという意味ではコンサルティングファームで経験を積めてよかったと思います。一方で、近安さんもおっしゃるとおり「井の中の蛙だったな」と実感もしています。ウォルマート・ジャパン /西友に行って感じた価値は、グローバル改革実例が簡単に取れることでした。世界中で何をやっているか、電話1本で分かる。コンサルティングスキルを生かしながら、世界中の最新事例を活用し、よりスピードを上げて改革を実践していけるようになりました。ネットワークを築いて人間関係ができれば、さらに深いことも聴けました。「アマゾンに対抗していこう」という議論をバリバリやっていたのはすごく楽しかったです。まさに「当事者」ならではの醍醐味だったと感じています。

JAC:貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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