イベントレポート
「石の上に3年もいなくていい」澤円が明かす20代のサバイブ術
「予測不可能な時代が来ていると言われる中、自分自身はどう生きたらいいかわからない」
「同期の成績や昇進ばかり気になって仕方ない」
「今の仕事は本当に自分に向いているかわからない」
日々こういった悩みを抱えながら働く、20代や30代のビジネスパーソンも少なくありません。
JAC Digitalのアドバイザーをつとめる澤円氏は、自身の若い頃を「ポンコツだった」と振り返ります。澤氏はどのような行動やマインドセットを経て、第一線で活躍するビジネスパーソンへと変化していったのでしょうか。
株式会社圓窓 澤 円氏
元日本マイクロソフト業務執行役員。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
2021年4月より株式会社JAC Recruitment デジタル領域アドバイザーに就任。
1.挫折・失敗・幸運・成長の繰り返し
子供の頃を振り返るとスポーツが苦手でした。特に球技のようなチームプレーは全くだめでしたし、運動会の短距離走も苦手でした。
けれど、大人になって好きなスポーツに出会えました。
20歳過ぎて始めたスキーは正指導員の資格を持っていますし、30歳を過ぎて始めた空手も3段で指導員の資格も取れたんですよ。
高校も受験に失敗して滑り止めの高校に入ったんですけど、卒業後にその高校が進学校になって、今では偏差値が75ぐらいあるそうなんです。
高校の1学年下に平野拓也(※)という後輩がいて、マイクロソフトで知り合い、すぐに仲良くなりました。高校の後輩だってことは、後でわかったのですけれど。
まさに「塞翁が馬」で、先々に何が起きるかなんて、予測できないということだなと思いますね。
※平野拓也氏…日本マイクロソフト前代表取締役社長で、現在は米マイクロソフト本社の役員。
大学を出て就職する際、とある会社から内定をもらっていたのですが、大学4年の冬休みに「これって就職じゃなくて、『就社』だな。なんか、ピンとこないな」と思ったんですね。
つまり、「どこの会社に入るか」じゃなくて「何になるか」という方が、自分には性に合っていると思ったんです。
僕は文系でしたけども、その時にエンジニアになりたいと思って、年明けから卒業までの3ヶ月間でもう1度就職活動を始めました。結果的に生命保険会社のIT子会社に拾ってもらい、プログラマーとしてキャリアをスタートさせることができました。
まだGoogleもない時代にプログラマーになった僕は、IT業界の中では完全に最下位の存在でしたが、幸いなことにすごく大きな社会現象が世界で起きたんです。
それがインターネット時代の到来で、たくさんの人がコンピューターを使うようになり、相対的に僕の立場が上がりました。
とはいえ、何もわからない状態でエンジニアを始めたので、わからないなりに必死で調べたり、人に聞いたり、いろんな失敗を繰り返すうちに、「あなたの話はわかりやすいね」って言われるようになったんですね。
つまり、エンジニアとしてはポンコツであるがゆえに、ITが苦手な人の痛みがわかったり、ITがわからない人のポイントに共感することができたりしたんですね。それがプレゼンテーションをする上でのいい武器になったんです。
振り返ると20代は本当にポンコツそのもので、全くいい思い出がありませんでしたが、30代前半から芽が出始めました。36歳になった頃、当時働いていたマイクロソフトの社員総会で全世界約10万人の社員の中から毎年10人くらいしかもらえないビル・ゲイツの名前を冠した賞をいただきました。
こんな風に僕は割と遅咲きで、いろんなことが後になってから起きたわけです。これを一言で表すと、「あきらめが悪い」ということなんですね。
できれば挫折や失敗はしたくないけど、若いうちは失敗から学ぶしかありません。何しろ知識や経験もないわけですから、若いうちは失敗しやすいんですよ。チャレンジしようと思って背伸びしたら、失敗もするわけなんです。
「いや、私は失敗したことないんです」という人がいたら、それはそれで素晴らしいことですが、油断しないほうがいいですね。歳をとってからの失敗は、ものすごい大怪我になることが多いです。
であれば、若いうちにいろいろとチャレンジして小さな失敗をしておいたほうが良いと思っています。僕の場合、その都度の失敗から学び、一生懸命やったからこそ、よい結果がついてきたのかなと思います。
アインシュタインは「何かが動くまで、何も起こらない」いう言葉を残しています。自分の人生においても、自分で動かないと何も起きませんよね。
「まだ若いので、会社から言われたことをこなすだけで必死なんです」という人もいるかもしれませんが、このマインドセットを持っていないと、他責思考——物事がうまく行かなかった時には人のせいにしがちです。
2.コロナによって、考えるきっかけが生まれた
ここでマトリックスを使ってお話したいと思います。
これは何を指しているかというと、人は立場や置かれている状況や選択した結果によって、この4つのどこかに入ってしまうということなんです。
「あなたはここにいますよ」ということではなく、「あなたと何かをかけ合わせると、この4つのどこかに入る」という仕組みなんですね。
例えば、僕は経済学部出身ですが簿記が苦手だったんです。そんな人が経理の仕事をするとどうなるかというと左下に入ってしまう。
また、プレゼンテーションが得意なのに、イベントの登壇を会社から禁止されたら左上に入ってしまいます。知識はあるのに実行力がない状態になってしまいますよね。では、私がスライドを作ることだけを命令されたら右下に入るでしょう。つまり、知識は活かせるが、簡単な作業に終始することになり成長は見込めない状態になると思います。
実は今、国レベルで上がだぶついている結果、知識・経験を活かせるシチュエーションを作れない組織が増え、日本全体の成長が失速している状況にあるんです。実際にGDP成長率や賃金の成長が失速していて、いろいろなところで弊害も起きています。
例えば右下のスライド要員はAIにとって代わる可能性が高く、変化への対応力が低い。左下の人材が増え続けると組織はどんどん停滞していってしまう。左上の人材は組織の成長を阻害する要因になってしまいます。
では、右上にいくにはどうしたらいいのかというのが大事であり、このことについて考えるいいタイミングなんです。それが2020年の新型コロナウイルスによって、世界が思いっきりリセットされたからなんですね。1995年のインターネット到来以来の大きな変化があったわけです。
小さなことで言えば通勤することと、仕事をすることは分離していることに気づいた人がたくさん生まれたわけですよね。それをどのように仕事に活かすかというと、できるだけ行動できる状態に自分の身をおいたほうがいいと思います。
僕は1995年にインターネットが来たタイミングで、リセットがかかったと感じて行動を起こしました。その結果、1997年にマイクロソフトに入ることができました。そして2020年に再びリセットがかかった時、色々と考えてその年の8月末に会社を辞め、オンラインで働く環境に投資して、JAC Digitalや日立製作所をお手伝いするようになりました。
今もリセットがかかっている状態なので、今からでも遅くはないのですが、ゲームリセットがかかった瞬間というのが狙い目です。そして、自分が最強になれる場所を探すにはうってつけのタイミングでもあります。
3.自分が最強になれる場所を探すには
では、自分が最強になれる場所を見つけるにはどうしたらいいかというと、自分の「タグ」をつけることなんですね。
このタグは自由につけてください。自分がこうありたい、こうやりたいと思うこと、人につけてもらうのもいいですね。
例えば僕には「#プレゼン」というタグがついています。プレゼンに関する本も出していますし、プレゼンそのものについて教えることもあります。
ITにも詳しいので、JAC Digitalとはアドバイザーという形でデジタルの文脈からお手伝いしていて、そしてプレゼンも得意なのでこうして講演する機会もいただいているわけです。
さらに言うと長髪なので、いろんな人に覚えてもらいやすいんですよね。これは何でもよくて、毎日赤い服しか来ない人でも、毎日和服を着ている人でもいいですし、それぞれ立派なタグになります。
そして、今まで当たり前だと思っていたことを疑ってください。物事に対して片っ端から疑う——クリティカル・シンキングを繰り返すことで、もっと視野を広げてください。
もう1つ重要なのはアンテナを立てることです。アンテナというと情報を受信するほうを考えがちですが、発信のほうが大事なんです。何かを発言することによって、自分のキャリアを作ることがあります。
「棚からぼたもち」という言葉がありますが、棚の下にいなければぼたもちは落ちてこない。であれば、棚の場所を尋ねたり、ぼたもちが好きだと周りに言ったほうがありつける確率も上がります。こういった形で、自分の言葉で発信し続けることで「あなた、これ好きだったよね」「こういうことをやろうと言ってたよね」と周りが知っている状態だと、チャンスも巡ってきやすくなります。
実はこれをやっている人はすごく少ないんです。だからこそ、自分の言葉で語り、アウトプットすればするほど得することが多い。手段はなんでもいいんです。Twitterでフォロワー1万人いないといけないとか一元的なことをいうつもりはありません。自分の思っていることを語ることで、語らない人よりもチャンスが巡る機会が増えますよ。
4.若いうちに身につけたいマインドセット
次に大事なのは、自分がコントロールできることに集中することです。自分がコントロールできないことに、自分の思考を持っていくことほどくだらないものはありません。
例えば、「うちの上司の性格の悪さ、どうにかならないかな」と考えていても、どうしようもありません。では、どうすればいいか−−その上司と仕事したくないなら辞めるという選択肢があります。
あるいは、「嫌いだけれど、自分に対する態度が悪くなければ許してやっていい」と思うのであれば、上司をご機嫌にしてあげればいいんです。
ぼんやりと「あいつ嫌いだな。やる気が起きないな」と思いながら、ストレスを抱えて行動に移さないのは非常にもったいないですね。
さらにもう1つ。「ちょっとグレてみる」ことをお勧めします。これはトイレに隠れてタバコを吸うのではなく、「今までの自分だったらやらなかったことを、あえてやってみる」ということです。今まで当たり前のようにやっていたことを自分なりに裏切ってみることで、「ちょっと彼変わったよね」「彼女、今まであんな感じだったかな」と周囲に思ってもらえるような選択をするというのも、あえてやってみるのも重要かなと思います。
5.キャリアを2次元で考えない
絶対にやめたほうがいいのは、キャリアを2次元的に考えることです。
「同い年なのに自分よりもポジションが高い」「年下なのに自分と同じポジション」といった自分と他者にあるギャップに嫉妬が生まれます。
嫉妬にも健全な嫉妬と、そうではない嫉妬があります。
「ああいうやり方をするとうまくいくんだな。それは自分にもできることだな」と思うのは健全な嫉妬です。だけど「ずるい。あんな実力あるはずないのに」と自分がコントロールできないところに対して、嫉妬の炎を燃やしている状態は誰もハッピーにはなりません。
そもそもキャリアに上下というものはありません。「キャリア探しは、宇宙遊泳だ」と僕は考えています。ジェイエイシーリクルートメントのような転職エージェントは平面的なキャリアではなく、世の中に存在するさまざまな選択肢(=宇宙空間)を提示する存在だと思っています。その宇宙空間を自由に泳ぎ回るのが、キャリアを探す上での健全な思考だと思います。
ウェルビーイングという言葉があるように、今は「自分がどうありたいか」を重視する時代です。もし自分に夢があれば突き進めばいいし、なければのんびり待っていてもいいと思います。
けれど、やりたいことをやる・ありたい自分でいることにフォーカスするのは大事です。もし困ったことが起きたら人に頼って下さい。相談できる人がいないのであれば、困っている人を自分から助けるのがいいでしょう。そうすることで、いざ自分が困った時にかつて助けた人たちが相談相手になってくれます。困っている人を助けることで、世界の見え方は全然変わってきますよ。
6.誰かと比較しない、自分の人生を生きる
先ほど話した通り、人生において他人との比較する必要はありません。他人の人生を気にしている暇なんてないし、何よりも重要なのは昨日の自分よりも、今日の自分のほうがずっといいと思えることです。
若いうちは「石の上にも3年だ」とか「苦労は買ってでもしろ」と言われることもあるかもしれませんが、「我慢」と「鍛錬」は違います。鍛錬というのは自分の筋肉に負荷をかけて、筋肉を大きくし動きを早くすることですが、自分の筋力にあっていない鍛錬をすると怪我をするだけです。
そのため、「今、自分は我慢しているのか、それとも鍛えているのか」と常日頃から自分に問いかけましょう。ずっと我慢していて、何も鍛えられていないと思ったら、逃げたほうがいいですよ。
いつでもスタートラインは作れます。今からリスタートだと思ったら、いつでもリセットできますから安心して下さい。
1969年に上映された「イージーライダー」という映画の中で、こんなセリフがあります。
宇宙人たちの間には戦争も通貨制度もない。
指導者はいない、全員が指導者だ。
(中略)
高度に発展したテクノロジーのおかげで、日常の生活は競争無しに満たされる
このセリフにもあるように、テクノロジーやデジタルのおかげで、世の中は絶対によくなります。実際に僕もテクノロジーにずっと触れていますが、テクノロジーはより素敵な未来を作る材料なんですよね。テクノロジーを使って、私たちで素敵な未来を作っていきましょう。
この記事の筆者
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