イベントレポート
製造業における「デジタル変革の実現」に向けた採用とは
技術の進化や時代の変化はとどまることがなく、昨今のDX化の流れはコロナ禍で勢いを増しています。
国内製造業でも、新製品・新サービスの投入や新規事業だけでなく、基幹システムの刷新やサプライチェーンの効率化によるコスト削減など、あらゆる部門のデジタル変革が必要とされています。
一方で「何からDX化を始めていいかわからない」「即戦力になるデジタル人材の採用がうまくいかない」と課題は多く、苦戦を強いられている企業も少なくありません。
製造業のデジタル変革を担う人材採用について、JAC Digitalのアドバイザーを務める澤円(さわまどか)氏と共に、製造業×DXにおける人材ビジネスのスペシャリストであるJAC Recruitmentの渡邉晶子(わたなべあきこ)がオンライン対談を行いました。
株式会社圓窓 澤 円氏
元日本マイクロソフト業務執行役員。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
2021年4月より株式会社JAC Recruitment デジタル領域アドバイザーに就任。
株式会社ジェイエイシーリクルートメント
渡邉 晶子
英会話スクール運営、技術者派遣営業を経て、2011年に入社。シニアプリンシパルコンサルタント。一貫して製造業マーケットを担当し、総面談数は5000名以上、また200名以上の転職をサポート。うちエンジニア支援が7割を占める。担当領域は日系・外資含め、自動車、精密機器、半導体・半導体製造装置等。2017年よりIoT・エンベデットに特化し、IoT/AI/Data Businessをキーワードに企業のDX人材の採用を支援。国家資格キャリアコンサルタント。
1.DXが製造業にもたらす影響と、採用に起こる変化
渡邉:そもそもデジタル変革とは何なのか、いま起きている変革は製造業にどんな影響をもたらしているのか。そして製造業におけるデジタル領域の採用はどうなっていくのかをお伺いしたいと思います。
澤氏:「デジタル変革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」はバズワードのようになっていますが、「既存業務のデジタル化」とは似て非なるものだということを押さえた方がよいですね。『既存業務のデジタル化』はデジタライゼーションと私は呼んでいます。
DXは、事業そのものの枠組みを変えることです。今までやってきた事業をデジタルを活用してエンパワーメントすることを超えて、デジタルを中心にしてリストラクチャリングする。つまり事業構造そのものを新たに再構築するという発想が必要になります。
渡邉:そうすると、今までと同じ採用の手法を続けるのは難しくなりますね。また、採用に関わる人事部門だけではなく、事業部門や、より上位の経営層もその発想が必要になると認識しています。
そうしたデジタル変革についての前提を踏まえた上で、今後製造業で求められるのはどんな人材なのでしょうか。
澤氏:
わかりやすい事例として自動車の進化を解説します。まず、Ferrariのダッシュボードには沢山のメーターやボタンがついています。一方Teslaの電気自動車ではそうしたものが一掃され、さまざまな制御をタブレットで操作します。
Teslaのようなプレイヤーが出てくると、これまでダッシュボードにあったメーターやボタンの部品や原材料の調達、製造、在庫管理、配送、販売などのサプライチェーンが不要となり集約されてしまう。結果として人々の働き方や事業への関わり方にも大きく影響を与え、変わっていくことになります。
また、制御を集約するソフトウェアが圧倒的優位に立つようになります。
掘り下げています。
2011年にマーク・アンドリーセン(※) がウォールストリートジャーナルに「Why software is eating the world」という記事を書いてからの10年間で、世界に流れるデータ量は14.8倍に増加しました。今後もソフトウェアの力を借りて、その膨大なデータをどんどん処理し、活用できる状態にしていかなければいけない。言うまでもなく製造業も、ITソフトウェアと機械が混ざり合うのを受け入れなくてはなりません。
となると、人材に求められる能力も、ソフトウェアエンジニアのみや機械工学だけに詳しい等の、軸一本では通用しなくなってきます。今後はITと製造、両方の専門家でなくとも、何らかの形で複数の知見がないと苦しくなるだろうと思います。
※マーク・アンドリーセン…米国のソフトウェア開発者であり、投資家。1994年に公開されたwebブラウザーNetscape Navigatorを開発し、23歳でIPOを果たす。その後は投資家としてアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)というベンチャーキャピタルを創業。TwitterやFacebook,そして後にMicrosoftが買収するGitHubに投資している。
渡邉:私が面談して優秀だと感じる求職者の方も、専門がありながら他にも幅広くできることをお持ちのことが多いです。そういう方はどこからも引っ張りだこですし、どんなご年齢でもニーズがあるように感じています。
澤氏:
山口周さんと楠木健さんの対談本『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社、2019年)で、お二人は口を揃えて「スキルに頼るな」とおっしゃっています。特に点数化できるスキルを自分の売りにしていると、ずっと不毛な競争に晒されることになるからです。
では、今後何を磨いていけばよいかといえばセンスです。独自のセンスを磨くことで、ユニークな存在であり、希少性の高い人材になっていく。ーーこれも専門性の掛け合わせと関わる大事なポイントだと思います。
2.求人票作成から応募までに起きる課題
渡邉:デジタル変革を経営課題として捉える企業は、この数年で明らかに増えていると感じます。その一方で、やはりとても難しい課題だと言われることも多いです。
そこで今回は、採用フェーズを2つに分けて考えたいと思います。フェーズ1は「応募喚起」。つまり、求人票の作成から募集、実際に応募してもらうまでのプロセスです。
私が携わっている案件の7割ほどが製造業におけるソフト関係の求人なのですが、企業の担当者から応募喚起に関するお悩みとしてよく伺うのが「自社の知名度の低さをどうしたらいいか?」です。
澤氏:行動しないと知名度は上がりません。まずはその努力をしたほうがよいでしょう。今後の採用で最も重要なキーワードは、「面白い」ことだと思います。知名度を上げる努力とは、たくさん広告を打つとかではなく、うちは面白い仕事をしていますよ、面白い人がいますよということを的確に情報発信して候補者に伝えることです。
渡邉:確かに私自身の感覚としても、「この人たちと一緒に働きたい」という気持ちは、お金や場所といった要素以上に優先されている気がします。
事例としては、私が担当しているとある企業が、求める人材に特化した採用サイトを公開されました。部門トップのコメントからキャリア入社の方の具体的な事例まで子細に載せています。公開当初は反応が薄かったようですが、後から「サイトを見たんですが、あの会社で今どのポジションの募集がありますか」というお問い合わせをいただくようになりました。
澤氏:まず自分から情報発信するのは、絶対条件だと思います。ロールモデルになる面白い人がいるなら徹底的に表に出す。さらに、採用担当者以外もどんどん情報発信して、一緒に働きたい人を誘いやすくするのが重要だと思います。
知名度が低いことの意味する解像度を高くすると、転職を考える人に選択肢として想起してもらえないということです。
あそこには面白い人がいる、面白そうなことをしている会社だと記憶に残っていれば、「あの会社がソフトウェアのエンジニアを募集しているなら、面白そうだし応募してみようかな」という風に繋がる。
いきいきと働く人がいれば、仲間に入りたいと思った人が寄ってきます。人中心で動いていく世の中になりつつあるわけだから、当然そこにマインドセットを変えていくといい方向に向かうと思います。
渡邉:もうひとつ頻出するのが、「候補者ターゲットの母集団形成ができない」というお悩みです。なぜそうなるのか想像すると、まず経営者が「同業他社も始めているし、当社もデジタル強化したい」と該当しそうな部門に指示します。その部門は「ひとまず自社にない技術を持ったDX人材を募集しよう」と人事に展開して、人事は「初めての求人依頼なので募集要項がよく分からない。とりあえずホームページに載せて、そのままエージェントに送ってみよう」となる。ーーこうした経緯が察せられる求人票は「御社の目指すDXって何ですか?」と人事や部門の方にお聞きしても、言語化できていないケースが大半です。その場合は、私たちが改めてヒアリングで掘り下げています。
澤さんはこのような課題を抱える企業の経営層にあたる方に、どのようなアドバイスされていますか。
澤氏:この状況を招いているのは、現状の産業構造ではソフトウェアに関する「ICT人材」と言われる人たちの7割以上がベンダー側にいるからと考えます。逆に事業者側にデジタルを語れる人が少ないので、自社のデジタル化について経営観点から判断し説明できる人がおらず、求人も曖昧に降りてくる。この状況を変えるには、まずは社内に自社の事業についてソフトウェア、デジタルの観点で語れる参謀が必要になります。
経営者は株主とはB/S(貸借対照表)で語り合い、マネージャーとはP/L(損益計算書)で語り合います。しかし、社員はB/SやP/Lの話では動きません。先に話したデジタライゼーションとDX化が混同していても構わないので、経営者が率先して現場の社員や顧客とデジタルの文脈で会話して、ITは専門家の仕事ではないというカルチャーを作ることがすごく重要なんです。
ITって現代の「読み書きそろばん」に相当するので、「IT音痴」みたいな言葉は禁句です。
具体的なプログラミングのことまで理解していなくても、少なくともビジネスのアルゴリズムを理解するのが経営者の責任です。
その上で、デジタルを使えばこんなことができるんじゃないか?という仮説を妄想し、その妄想をシェアして、形にする道筋を探していく。他社を真似して正解を求めてもトランスフォームしようがありません。
3.書類選考から面接、内定までに起きる課題
渡邉:人事の責任者や担当の方から度々お聞きするのが「DX人材とはいえ、人事に求人票を渡しておけばそのうち決まる」と思われていると感じますというコメントです。
澤さんがMicrosoftにいらっしゃった時期は、どのように部門の採用責任者のマインドセットをメンタリングしていたのでしょうか。
澤氏:白馬に乗った王子様を待ってちゃダメですね。もっと自分の方からいくことをお勧めします。
そもそも会社の中に人材採用と関係ない人は存在しないというマインドセットを持つことが大事です。採用プロセスに直接携わっていなくても、採用候補者にとっては社内にいる誰もが働き方のサンプルなので、全員が自分事として考えると非常にいい影響が期待できます。
いわゆるGAFA+Mと言われる企業は、採用権が事業部にあるので、最初から全員が当事者です。多忙を極める中でもスピード感を持ちながら「あなたは我々のチームとこんな仕事ができます。一緒にやりましょう!」というメッセージを込めてオファーを出します。日本の製造業各社も、このような企業と人材を取り合っていると言う意識を持ってほしいですね。
渡邉:先程区分けたフェーズの中で、後段に当たる具体的選考に入ったフェーズ2での課題ですが、事前アンケートを実施した中で、一番多く寄せられたお悩みは「選考辞退、内定辞退が多すぎる」というものでした。私達は実際に辞退された求職者からその理由をお伺いしていますが、「煩雑な手書きの書類文化が残っている」や「選考であまりにも待たされる」といったオペレーション的な問題に加えて、「実務にまつわる具体的な業務内容の提示がなかった」や「面接官が自分の専門性を理解できていない」といった就業環境に不安や不足を感じて辞退される例が最も多いと感じております。
澤さんはこういった声を、どんな風に活かすべきだと思われますか?
澤氏:来て欲しい人材がいるなら、ルールは基本的に相手側に合わせることです。
特に納得感のないものと法的根拠のないもの、この2つは全部やめた方がいい。求人倍率が8倍ある売り手市場にいるテクノロジーに明るい人たちが、理不尽なことや無駄なことに我慢して付き合ってくれる理由がないですよね。
渡邉:おっしゃる通りですね。面接に際して、上手く会話が噛み合わなかったり、採用したい方の志望度を上げたくても盛り上がらず終わってしまうというご相談を頂くこともあるのですが、澤さんが面接をされるときに心がけていらっしゃることはありますか?
澤氏:主語を大きくしないで会話することです。うちの会社は、うちの業界はって語らない。私はあなたと働きたいと思うとか、あなたにとってこの会社で働くとはこういうメリットがあるとか、最小単位で考え伝えるのが重要かなと思います。
渡邉:最終選考などで役員の方や部門統括の方がお話になる際は、どうしても会社全体を見るような高い視座からのお話になると思います。どのフェーズの面接であったとしても、この立場から見た自分の考えはこうという風に、あくまで一対一の会話をするのが大切ということでしょうか。
澤氏:おっしゃる通り、経営者は全体像を見ます。だけど「経営者である私」はこの会社をこう見ている、と主語を自分にできるはずなんです。
マネージャーは内部構造を見ます。
私はチームをどうマネージメントして、会社のミッションに貢献しているかという話ができます。一般社員は最も解像度高く現場を見ているので、私はこういう仕事をしていますという話ができる。会社を構成している立場によって視点が違いますが、経営者であろうと一般社員であろうと、あなたには何が見えているの?という質問は誰に対してもできます。ポイントは「お互いの見ている世界に興味を持つ」ということです。
そうすると誰もが自分ごととして納得できるロジックで会話をするし、なにより面接の時にやってみてほしいのは、事業の説明ではなく自己開示なのです。お互いに自己開示できると、候補者も安心して「ここで働こう」と思えるのではないでしょうか。
渡邉:DXに携わるデジタル人材、いわゆる製造業出身ではない方の価値観として、そうしたパーソナリティが見える人と働きたいという考え方は一般的だということでしょうか。
澤氏:製造業というカテゴリ分けも、もはや不要だと思います。
僕が日立製作所のLumada Innovation Evangelistにジョインしたのも、経営のトップに近い方々がすごく自己開示をしてくれたからです。日立が持つ大量のアセットに、顧客の持つデータやパートナーのソリューションを組み合わせて、デジタルの文脈に変わっていきたいとおっしゃったので、やりましょうよ、面白いのでお手伝いしますとなったんです。
これから製造業がどんどんトランスフォームすることが求められるなら、過去のプロセスは尊重しつつ、脱却していくことが必要ですよね。リスクをとって新しいことを始めていくから、一緒にこの舟に乗りませんかっていう誘い文句に惹かれるわけです。
この記事の筆者
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