-
- 法華津 誠氏
- エーザイ株式会社
執行役 CIO
法華津 誠氏 - 幼少期以降中学までを北米で過ごし、東京工業大学卒業後スタンフォード大学で修士課程修了。日本オラクルにおいて開発要員(新卒2期生)としてキャリアをスタートし、その後アメリカで自身のスタートアップを経験、日米において外資系ベンダーで技術職などを歴任。2013年、45歳で株式会社ファーストリテイリング入社、CIO、CSOを歴任しブランドの成長に貢献。2023年、エーザイ株式会社入社、同年10月に執行役CIO就任。
-
- 澤 円氏
- 株式会社圓窓
澤 円氏 - 元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険の IT子会社勤務を経て、1997 年、日本マイクロソフト株式会社へ。ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006 年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。2020年8月末に退社。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicyパーソナリティ。武蔵野大学専任教員。
ウェビナー開催レポート
大手アパレルから製薬への挑戦~エーザイのITトップが挑むグローバル全社業務改革~
エーザイ株式会社
AIやデータ活用、システムのクラウド化など、DX推進が叫ばれる現在、社内業務のデジタル化を進めることで、業務の効率化や生産性向上を実現させるといった課題は多くの企業が共通して直面している課題です。
大手製薬メーカーのエーザイ株式会社(以下、エーザイ)は、社内デジタル化推進に取り組む企業の一つです。このデジタル化推進をけん引するのは、外資系ソフトウェア会社にて技術責任者、大手アパレル会社でChief Information Officer(CIO)、Chief Security Officer(CSO)を務めブランドの成長に貢献した経験を持ち、現在はエーザイのCIOを務める法華津 誠氏です。
今回はその法華津氏にご登壇いただき、約10年にわたる前職を経て次のキャリアとしてエーザイを選んだ理由、節目節目におけるキャリア観、さらにはIT分野でキャリアを積む中で考える「今求められているIT組織」、エーザイで目指す「グローバル一体となって取り組む業務改革」について、JAC Digitalアドバイザーの澤円氏が法華津氏に深掘りしていきます。
*本記事は2024年3月5日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。
<登壇者・登壇企業紹介>
1.法華津氏がエーザイに入社するまでのあゆみについて
澤氏:今回ご登壇いただくのはエーザイ株式会社の法華津さんです。まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。
法華津氏:エーザイ株式会社の法華津と申します。私は非常に運がいい経歴の持ち主でして、幼少期から父に連れられアメリカやカナダで生活し、英語が不自由なく使える状態にしてもらいました。東京工業大学卒業後、アメリカの大学院へ留学させてもらったのち、外資系を渡り歩き技術職の仕事を行ってきました。45歳の時には株式会社ファーストリテイリングに転職し、約10年いろいろな苦労とともに成長させてもらいましたが、そこを退職しエーザイという会社に出会いました。
澤氏:なぜエーザイに入社しようと思ったのですか?
法華津氏:理由は3つあります。まず、経営者が変わりたいという気持ちが強い会社であること、次にやるべき課題が山積みであることが明らかだったこと、最後の決め手となったのが、新しい医療領域に対し取り組む可能性が大きいことでした。その領域とは認知症のことで、今まで薬としては製薬会社がいくら頑張っても症状改善剤しか提供できず、病気の根本原因に作用する薬剤がなかった領域です。薬剤がないので、根本原因に関わるという意味での診断治療のインフラも整備されていませんでした。
認知症は脳の病気で診断も難しく、先生によって言うこともやることも違う世界と思っていました。そのようなまだまだ未知の病に対し、デジタルで貢献できる部分もあるのではないかという面白さも感じました。面接のときは、結構わがままを言って何回もいろいろな方に会わせてもらい、最終的に入社を決めました。自分が納得して次の挑戦を決めていくのはものすごく大事なことだと感じますし、それを実現させてくれたことにも感謝しています。
澤氏:法華津さんは、エーザイにまったくの異業界から転職をされています。これまで「社風は合うのか?」「仕事上戸惑うことはないのか?」など言われ続けてきたと思いますが、実際はどうですか?
法華津氏:転職回数は現在で5社か6社目だと思うのですが、外資系ベンダーやスタートアップにいた自分がファーストリテイリングに入社したときが一番大きな変化でした。そのときの戸惑いに比べたらファーストリテイリングからエーザイに転職したギャップはそれほど大きくないと感じます。
ファーストリテイリングにはIT部長で入社、自分のような人間にCIOも経験させてもらい、最終的には優秀な後進にCIOは譲り、長年の課題であったセキュリティ強化に取り組んでいました。もちろんその環境のまま仕事をしていくことにためらいはありませんでしたが、自分のスキルが生かせる会社がほかにもあるのではないか、やったことのないことで自分のさらなる成長があると思いエーザイへの転職を決めました。もちろん前職では感謝しきれないほど学ばせてもらい、それによって今の自分があると思っています。
2.異業界出身ITトップがエーザイでさまざまな挑戦をしていく理由
澤氏:エーザイという会社は、ドラッグストアなどで手にする一般用医薬品を販売する会社とは一線を画した製薬会社ですよね?
法華津氏:いわゆる本当に外資の大手製薬会社とも違いますし、ドラッグストアに並んでいる一般用医薬品のみを売っている会社でもなく医療用医薬品を専門的に扱っている製薬会社です。一般消費者への薬(医療用医薬品)の提供は、医者や薬剤師を通じて処方していく流れとなります。そのため、マーケティングの考え方も違いますしアプローチがまったく異なる世界です。
澤氏:入社前からそのようなカルチャーがある会社だと認識していましたか?
法華津氏:実は過去に製薬会社のMRが使用していたSiebelというCRMの仕組みを取り扱っていたことがあるのでそれほどびっくりすることはありませんでした。逆にやっていることは今も変わらないという驚きはありました。
澤氏:ちなみに法華津さんが幼少期から培われたグローバルな感覚は、エーザイでも発揮できていますか?
法華津氏:エーザイという会社を次のチャレンジの場として選んだ理由はいくつかあり、私が入社するかどうかの判断をしなければならなかったころは、認知症の新薬もまだ承認されていない時でしたので不確実性もありました。しかし、内藤CEOと今自分の上司でもあるCEOの息子さんの内藤景介さんが確信を持った語り口調で説明してくださったことで入社に疑いをもつことはなかったです。
エーザイはメガファーマではないので、規律を持ってグローバル化してきた会社ではありません。世界各国で薬を必要としている当事者様にお届けするため、必然的に拡大してきた会社ですので、グローバルへの統制がまだ取れていません。ITのみならずグローバル化のスコープを広げて私が手伝えることがあると思っています。また、グローバル化することによって、それぞれの国の事業、患者様に還元できることもあると感じています。
澤氏:エーザイ社内にはプロパーの方は多いのでしょうか?
法華津氏:IT部門に関しては半分以上がキャリア採用社員ですが、一歩ITの外に出ると約9割はプロパー社員です。ですから、現在取り組んでいる全社業務改革は外から人や技術を取り入れるだけでは成り立ちません。プロパー社員の考え方や今までのやり方をあらため、さらに効率化してより良くしようという考えのもと納得してやってもらわないとうまくいかないでしょう。それも挑戦の一部だと思っています。
3.デジタルの力を活用して認知症領域から社会を変えるために
澤氏:認知症領域の新規治療薬を必要としている当事者様に届けていくのは大きな挑戦です。いろいろな国で少子高齢化がさらに進んでいき、認知症に関する対応が不可避であると思います。歴史を変えるような領域にデジタルで変革していく場合、どのようなところから入っていくのですか?
法華津氏:いくつかある中、エーザイの子会社としてTheoria technologies株式会社(テオリア)を設立しまして、そこでは診断部分の精度を上げられるよう、データに基づいた予測エンジンを作ろうとしています。あと、検査をしていく上ではCSF(脳脊髄液)検査やPET(陽電子放出断層撮影)検査などがあるのですが、このような患者様の負担になるような検査をしないとアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータが蓄積しているかどうかを判断できません。その部分を医療的検査以外のデジタルを活用することで仕分けできるようなアルゴリズムを作り、検査前の判断に適用できないか、仕組みを考えているところです。
データはあって病気に詳しい専門家もいる状態なのですが、それをアルゴリズムに落とせる人間が今までいなかったので、そのような集団をしっかり形にしていこうとしています。
澤氏:医療領域に関しては専門家ではないけれど、医療領域をサポートするプロであるという立場で本当に精通していかないといけないというところですね。
法華津氏:はい。この領域に精通されている方と我々IT人材が協業していくことに価値があると思います。
澤氏:薬だけに頼らない他社との協業体制に関しては、法華津さん中心に組まれているのですか?
法華津氏:薬も他社との協業モデルで開発していますし、ITも自分たちだけではできません。新会社のテオリアも協業モデルでやっていく予定です。当然協業パートナーとは秘密保持契約を締結しているので守秘事項が外部に漏れることはありませんが、単独でできることは案外この業界少ないかもしれません。製薬だけでなく、そういう世の中になってきています。
澤氏:エーザイもその流れにシフトしているのですね。ITベンダーを巻き込むのは当然で、それ以外にほかの製薬会社とも協業していく感じなのでしょうか?
法華津氏:そうですね。ただITについてはパートナーリングの仕方を変えないといけないとは思っていて、ベンダーに使われている状態は逆転しないといけません。助言はいただくものの、最終判断は自分たちで行わなければなりませんし、何がやりたいのかの指針はしっかり持っていないといけないと思っています。
私としては自分が率先して見せていかないとチームがついてこないと思っています。働き方としてITはシステムだけ作っていればいい、ということだと業務改革は起こせません。我々が率先して業務を理解し、一緒に業務側がどうしたらよいかを考える。その中で業務側の人にもITを学んでもらい、理解してもらうことでより協業しやすくなります。そういったパートナーシップが業務側とできればいいですね。
澤氏:あと、新会社設立によるエコシステム構想があるとのことですが、これはどういうものですか?
法華津氏:ここで大切なのは我々しか持てないような特殊なIP(Intellectual Property:知的財産)をまずは確立することです。IPができた際には、パートナーシップをさまざまな会社と締結し、利用者を増やしていく。そして、その機能をより多くの方々に提供していくためにエコシステムを作ることを指しています。
澤氏:エコシステムという発想でサイクルを回していくマインドを持ち、上昇スパイラルが起きていくイメージですかね。
法華津氏:皆さんから見ると認知症はいくつもある病気の一つでしかありません。ほかにも糖尿病があったり、ガンがあったりといろいろなものがあります。ですから認知症だけの何かを作ってもあまり皆さんに取り扱ってもらえると思っておらず、医療や健康という大きなかたまりとしてやっていかないといけません。そう考えると、我々はその一部でしかないので、広いサービスを提供されている会社や自治体と組んで皆さんにサービスを提供していくことが正しい方法だと考えています。
4.異業界の人間が活躍できる風土
澤氏:異業界人材の活躍についてお話しをしていこうと思いますが、エーザイは他業界から来た人が活躍しやすい風土なのでしょうか?
法華津氏:特別活躍しやすいかというとそうではないと思いますが、本人次第のところが大きいです。何よりもわかったふりをしないことが重要で、よくわからないことは自分で答えずに専門的な人に聞いたうえで回答するか、専門の方とお話しいただくかといった潔さは必要です。わからないことは素直にわからないと伝えてしっかり教えてもらう。その代わり教えてもらったら次からは答えられるようにする、その繰り返しだと思います。
澤氏:中に入ったら聞かれたことは全部答えなければならない、全部知っていることにしよう、というのは逆にリスクになるわけですね。間違った情報が広まってしまうとネガティブインパクトが非常に大きいですしね。
規制が日本の法律だけにとどまらず、世界的に全てアンドを取っていかないといけない点は本当に大変かと思いますが、それについてはいかがですか?
法華津氏:アンドがまったく取れないのではと思うほどいろいろな規制があります。製造側の規制はある程度揃っているので薬の提供に関してはあまりバリエーションがないのですが、販売や営業に関する規制は国によって違っており、一つの答えがない状態です。
たとえばアメリカは非常に自由で、一般消費者に対し医療用医薬品のマーケティングが可能です。しかし、ヨーロッパや日本では禁止されており、ヨーロッパには日本より厳しい部分もありますし、日本でもお医者さんに対するマーケティングに規制があります。そのため、やり方に工夫が必要で、規制にどう対応していくかきちんと理解した上で、デジタルをどう使うかを考えないと、会社に迷惑がかかってしまいかねません。
澤氏:その理解をサポートするツールとしてAIは今後必要になるかもしれませんね。規制によって人命が脅かされるのは本末転倒ですからね。
法華津氏:業務を効率化しようにもすぐにできないことが結構ある気がしています。そのような中でも、製造工程や管理方法に係わる仕組みをさまざまな規制や決まりに準拠しているかを確認するシステムのバリデーションプロセスを変えていこうという業界の流れもあるので、最近はそのあたりをいかに早く取り入れて上手くやっていくかを考えています。
澤氏:法華津さんは立場上、経営層の集まるところにいることが多いと思いますが、ほかのメンバーはチーム内での会話が多いのか、もしくはビジネス部門の人たちと会話する機会などはあるのかというとどうでしょうか?
法華津氏:業務寄りのIT人材はまさにその働き方をしてほしいですし、できてきていると思います。逆にITインフラ系の人材はビジネス部門と話す機会はそう多くはありません。いかんせん距離があるため、どのように交わらせるかは今期・来期の課題です。
5. 新しい仲間に求めたいこと
澤氏:エーザイを新しい転職先として考えてみたい人たちに向けてメッセージを、また新たな仲間に対してこんなことを期待したいということがあればお願いいたします。
法華津氏:認知症という新領域にチャレンジしている部分ももちろんあるのですが、何よりもいち早く会社がやらなければいけないのがITの統合で、グローバル統合をしなければなりません。各国バラバラになっている状態をいかにうまくコミュニケーションを取りながら統合し、一つのことをみんなでやるような体制に変えていくのかが最重要課題です。
私は、自己成長のためには常に新しいことにチャレンジしていく、それも自分が得意ではないことにチャレンジしていくことが重要だと思っていて、そういった機会がエーザイにはあると感じています。これからは競合も出てくると思いますし、スピード感を持ってやらないといけない意味でも新しい仲間に入ってきてほしいですね。
6.質疑応答
Q. プロパーに変わってほしいことにはどのようなことがありますか?逆にプロパーが多い組織にカルチャーフィットするためにはどのようなことが必要ですか?
A.法華津氏:変わってほしいこととしては、今までのやり方を正にしないことです。世の中が変わっているので自身で外も見てほしいです。私はよく「ほかの会社はどうやっているのですか」と問うことがあるのですが、その質問に答えられないことがあります。それではなかなか良いことはできませんし、損していると思います。他社の成功事例を学び取り、それが自社の利益に生かせるならば積極的に取り入れる必要があります。そこをプロパーの方にはしっかり理解してほしいですね。
それと、カルチャーフィットするためには積極的に会話をしていくことが秘訣だと私は思います。
Q.新薬の開発とITの開発では開発の考え方がずいぶん異なると思います。開発の違いに戸惑うことはなかったですか?
A.法華津氏:新薬の開発はITの開発とまったく異なり、スパンやデータ量も違います。実験や臨床などが入ってくるので臨床試験を行うと時間はあっという間に経ってしまいます。技術的な開発という点では同じ開発なのですがまったく違いますね。ですから、私はまだそこにうまく携われていないと感じていますので、これからもっと勉強していく必要性を感じています。
Q.エーザイにおいてIT部門以外は9割方プロパーの方でありITの活用・促進についてしっかり納得してもらう必要があるという話がありました。納得してもらうために入社されてから注力されていることや工夫されていることはありますか?
A.法華津氏:私が何かを伝えるときに一番大事にしているのは、全体像をきちんと説明することです。単にやってほしいことだけを伝えてもおそらくわからないでしょう。ですから、「あなたの関わっているこの部分に関してはこうしていきたいと思っています」と説明すれば嫌だと思う人は少ないので、全体像を共有して伝えていくのが大切だと思います。
Q.法華津さんはまだ転職されて1年ほどだということですが、エーザイおよび製薬業界に関する業務知識のインプットは入社後に始められたのでしょうか?
A.法華津氏:全て会社の人に教えてもらっています。分からないことがあったら聞くという姿勢では負けないようにしています。
あとは、ウェブを使って自分で調べます。聞いたことを忘れないようにキーワードを聞いて、わからない部分はウェブで調べればわかるので、この組み合わせがベストです。
Q.ITのグローバル統合を詰めているということですが、優先的に注力している課題を教えてください。
A.法華津氏:現在優先的に注力しているのはインフラセキュリティ分野のグローバル統合です。これを成し遂げるためにグローバルで組織を運営しなければいけません。グローバルは全員で200名近くいるのですが、同じ目標に向かって進んでいく必要があるため、「インフラ」「セキュリティとコンプライアンス」「データ活用」この3つの領域の立ち上げとグローバルプロジェクト推進が大事だと思っています。
Q.デジタル人材の育成についての話題を目にすることが多いですが、エーザイにおいても何か取り組みはありますか?
A.法華津氏:現在デジタル人材育成に特化したプログラムを人事部門とも協力して開発中ですが、私は日々の業務の中で育ってほしいと正直思います。育成は業務が紐づいていないとうまくいかないと個人的には感じていますので、育成教育はぜひ現場で行いたいと考えています。
この記事の筆者
ハイクラス転職を実現する
「コンサルタントの提案」
をぜひご体験ください
ハイクラス転職で求められることは、入社後すぐにビジネスを牽引する存在になること。
そのために「コンサルタントの提案」を聞いてみませんか?
ご経験・ご経歴・ご希望などから、転職後のご活躍イメージを具体的にお伝えします。