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【イベントレポート】中外製薬が目指すデジタルイノベーションーーヘルスケアの未来を担うDX人財とは

中外製薬株式会社

イベントレポート

中外製薬は経済産業省が選定する「DX銘柄2022」のグランプリに選ばれました。その背景には、デジタル技術によって会社のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになることを掲げた「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の存在と、それを推進するための全社的な取り組みがあります。

そのような中外製薬のデジタルトランスフォーメーションユニットをリードする、上席執行役員の志済聡子氏をお招きし、元日本マイクロソフト業務執行役員でJAC Digitalアドバイザーである澤円氏が質問者となって、オンラインセミナーを開催。IT業界から異業種に転職した志済氏の経験や、中外製薬でのイノベーション事例を交えながら、デジタルで変えるヘルスケアの未来に迫りました。

※ 本記事は2022年12月6日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。

<講師紹介>

志済 聡子氏
志済 聡子氏
  • 志済 聡子氏
    中外製薬株式会社
    上席執行役員
    デジタルトランスフォーメーションユニット長
    1986年 日本アイ・ビー・エム株式会社入社。官公庁システム事業部、ソフトウエア事業部等で部長を歴任後、IBM Corporation (NY) に出向。 帰国後、執行役員として公共事業部長、セキュリティー事業本部長等を歴任。 2019年中外製薬に入社し、デジタル・IT統轄部門長。2022年より現職。
澤 円氏
澤 円氏
  • 澤 円氏
    株式会社圓窓
    株式会社圓窓 代表取締役。元日本マイクロソフト業務執行役員。現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
    2021年4月より株式会社JAC Recruitment デジタル領域アドバイザーに就任。

―1.正確かつ高速なデジタルテクノロジーで新薬を創出する

志済氏:中外製薬のデジタルトランスフォーメーションユニット長をしている志済と申します。前職は日本アイ・ビー・エムで、官公庁システムやセキュリティーの責任者などを務めていました。30年以上の勤務を経て転職を考え、外資系やITベンダーではない会社を探すなかで、縁あって中外製薬に2019年5月に転職しました。

澤氏:インフラ的な側面のあるITベンダーから、事業会社である中外製薬に移られたのですね。志済さんにはどのような役割が求められていたのでしょうか。

志済氏:中外製薬はヘルスケア業界におけるトップイノベーターを目指しており、そのためにデジタルを活用しようとしています。会社としてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むにあたり、当時社内にはデジタル領域の勘所がわかる役員がいなかったため、その旗振り役として私が加わりました。

澤氏:中外製薬が掲げる「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」からも本気度が伝わってきますが、具体的にはどのようなことにデジタルを用いるのでしょうか。

志済氏:第一には「新薬創出への活用」です。新しい薬を作るためには、分子の設計から治験まで、とても長い時間とお金がかかります。着想から世に出るまで10年以上かかることもありますし、失敗や製品化に至らない事例も多く、これらの時間・成功率・コストという3つの課題をデジタルで解決しようとしています。
たとえば何万種類ものアミノ酸がある中で、ターゲットにぴったり合う抗体配列を選び出すには膨大なデータを処理する機械学習が役に立ちます。人間が一生懸命考えるよりも素早く、かつ高い結合活性を有する候補を絞ることができるので、研究者はこれまで費やしてきた時間を別の業務に割けるようになるのです。論文検索や薬の効果を測るための画像解析などでも、正確性とスピードを兼ね備えたAIは効果を発揮します。開発の終盤で予想通りの結果にならず、それまでの投資が無駄になることを避けるために、早い段階からデータを解析することにも取り組んでいます。

イベントレポート

―2.病院とのコミュニケーションでも進むデジタル化

澤氏:議論や解析がデータ中心に行われるようになれば、遠隔地にいる方たちとのコラボレーションも行いやすくなりますよね。

志済氏:そうですね。別の拠点にいる研究者同士がオンラインでつながり、分子設計のミーティングをバーチャル空間で行うこともあります。ヘッドマウントディスプレイとVR用のスティックを使って、分子の位置関係を空間的に把握しながらやりとりするような方法も取り入れられています。

澤氏:エンターテインメント的なイメージの強いVRが、製薬会社の事業で使われているのは面白いですね。こうした働き方の変化やデジタルの活用は、やはりコロナ禍によって加速したのでしょうか。

志済氏:パンデミックによってデジタル化が強制的に進んだ部分はあると思います。一時期はMR(医薬情報担当者、Medical Representative)が病院に入ることすらできませんでした。これまでメールやWebサイトを活用していなかった医師たちもこのようなツールを使うようになり、コミュニケーションの方法が一気に変わったことは、デジタル化を進めるという観点では大きな転換点でした。

澤氏:医療業界という特性もあり、オンラインコミュニケーションへの変化が進みやすかったのですね。会場から「MRの能動的なPRだけでなく、オウンドサイトからのPRも盛んになってくると思いますが、そこではどのような取り組みが求められますか?」という質問をいただいていますが、いかがでしょう。

志済氏:私たちは「PLUS CHUGAI」という医療関係者向けのオウンドサイトの活用も進めており、薬や副作用の情報、先生方によるWebセミナーなどをアップしています。こちらからの一方的な紹介だけには留まらず、先生方がアクセスしている/知りたい情報を集めて分析し、そこで理解したニーズをMRに共有するようなアプローチが有効になってきています。逆に、オンラインだけでは不十分なケースは、MRが声をかけてフォローするような関係が今後は重要になると思います。

―3.中外製薬のデジタル化を進める人財とは

澤氏:バーチャル空間での分子モデリングや、オウンドサイトとMRの協働など、部署をまたいで「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を実現しようという姿勢が伝わってきました。一方で、社内でデジタル化を推進できるような人は希少だったのではないでしょうか。

志済氏:大きなシステムの管理をするようなIT部門は私が入社する前からありましたが、発想がデジタル的ではありませんでした。中外製薬はもともと、サイエンスを得意とする研究者が多い会社ですから、そうした人財がデジタルを使いこなせるように、私が旗振り役となって外部からキャリア採用を行いました。結果として、ITベンダーだけでなく、事業会社からも多くの若い方が加わってくれたことには驚きました。

澤氏:採用のための情報発信がうまくいったのですね。

志済氏:中外製薬は市販薬ではなく、がんや血友病の薬など、病院でしか処方されない薬を扱っているので、一般的な知名度が低いという課題がありました。そこで、私たちが実現したいことを丁寧に伝えるために、noteやYouTubeなどのプラットフォームも活用してデジタル人財へのアピールに力を入れました。結果として、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に共感する方が集まってくれたので、ブランディングの大切さを感じています。

澤氏:志済さんもITベンダーからの転職で、苦労を経験されたのではないかと思います。異業界から来て活躍するためには、何が必要でしょうか。

志済氏:業界を選ばず通用するスキルや経験です。自分の中に一つ芯のようなものがあれば、それを欲しているどこの業界でも活躍できるでしょう。業界特有の知識が求められる仕事もありますが、汎用的なソフトウエアやクラウド基盤などのテクニカルな部分では、スペシャリティを磨いておくことが重要だと思います。

澤氏:自分が持っているスキルを言語化できていることは、転職の絶対条件ですよね。

志済氏:そうですね。採用する側も「ITがわかる人」くらいの粒度では募集しません。「デジタルマーケティング経験者」や「クラウドでインフラを構築したことのある人」など、かなり細かく条件づけをして採用をかけています。会社の側としても、そういったジョブディスクリプションを明確にしておかないと、いい人とマッチできないのだと意識しています。

―4.全社を巻き込みバリューチェーンを効率化する

澤氏:今日はとてもたくさんの方から質問をいただいています。「創薬以外で、御社がDXで成し遂げたい、もしくは強化したい分野はございますか? たとえば営業、人事など、今後の戦略があれば教えてください」とのことですが、いかがでしょう。

志済氏:創薬研究にかかる多額の投資を担保するために、開発から営業まで、事業のバリューチェーン全体を徹底的に効率化することは重要な戦略の一つです。たとえば人海戦術で補ってきたオペレーションのデジタル化や、工場の自動化にも取り組んでいます。被験者の同意を電子的に取得できるeコンセントの登場など、すべてが紙でないと駄目という状況は変わりつつありますが、依然として膨大なペーパーワークの効率化を図ることも地味ながら大切な目標です。

澤氏:ただ新しい薬だけを作ればよいのではなく、会社全体でエコシステムを作る必要があるのですね。これに関連して、「国内製薬会社では研究開発部門の力が強く、革新をリードするべきIT部門の肩身が狭そうな印象ですが、志済さんが中外製薬に入られた当初はそのような風潮はあったでしょうか。製薬会社内で改革する際の、社内のハードルなどあればお伺いしたいです」という質問も来ています。

志済氏:もちろんハードルはありました。IT部門は他部署と距離があり、サポーターのような立場だったのです。部長クラスの意向一つで不利を被らないように、役員クラスや社長をグリップすることを相当意識しました。

澤氏:日系企業にありがちな「待っていると変わる」という現象ですね。今後数年でゲートキーパーがいなくなるという現象は、いろいろな日本企業で起こると思います。デジタル化の圧力に抗うことは難しいでしょうから、デジタル化を推進したい30〜40代の方には大きなチャンスとなるかもしれません。

―5.医療データが活用されるヘルスケアの未来

澤氏:ヘルスケア業界全体に関する質問も来ています。「創薬研究におけるDXでは、現在さまざまな製薬メーカー様が自社の創薬技術としてAI創薬に取り組まれているかと思います。中外製薬様において、創薬研究のフィールドにおけるDXでの他社との差別化や方針などはございますか?」

志済氏:テクノロジー自体で差別化するよりも、やはりその成果としての薬で差をつけたいです。あらゆる薬の開発には必ずライバルがいて、一人勝ちはなかなかできません。競合に勝つためにスピードを上げるとか、相手の様子を見ながらタイミングを調整するとか、そのような部分での差別化にDXを活用するイメージです。

澤氏:DXそれ自体での差別化は必要ではないという、本質的なご意見だと思います。続いて、こちらの質問はいかがでしょう。 「イノベーションを創出する上で、薬に関連するエリアにフォーカスする企業と、既存の商材にこだわらずに新規事業開発している企業に二分されるイメージですが、中外製薬様の方針、また志済さんのお考えをお聞かせください」

志済氏:これは社内でも議論になっているトピックです。私たちとしては、まずは薬の開発が主軸にありますが、良い薬を作るためには疾患の性質や患者さんの予後なども理解する必要があります。最近では、病院でしかわからなかった情報も、ウェアラブルデバイスなどを通じて、いつでも・どこでもモニタリングできる可能性が出てきています。こうしたデータを集めて創薬に反映しながら、治療以前の予防を重視したり、患者さん自身がデータを集めたりするような社会にも対応していこうとしています。私たちが製薬会社でなくなることはないでしょうが、こうしたマーケットの変化は十分意識しなければいけない部分だと思います。 政府も医療分野でのビッグデータを活用するデータヘルスという考え方を示し、医療DXの基盤整備を推進しています。これまでの医療データは厳密に守られていましたが、今は個人情報と切り離して活用する方針に変わってきていると感じます。民間企業よりも学術利用が優先されている状況ではありますが、日本の創薬のレベルを上げていくためにも、製薬会社として医療データの活用を推進するための取り組みを進めています。

―6.一緒に働きたいのはこんな人

澤氏:最後に、志済さんが一緒に働く人に求めることを教えてください。

志済氏:好奇心のある人と働きたいです。入社できればなんでもやりますよ、と言われても困りますし、本当にやりたいことがあるかどうかは面接の中でわかります。前職では親会社との関係でやりたいことができなかった、といった自分のストーリーを語ってくれた方が面白いです。職務経歴と自分なりの職業観を通じて、自信を持って中外製薬を選んだと言語化できている人であれば、採用に結びつくと思います。
昔は「転職=ドロップアウト」のような価値観もありましたが、今はむしろ複数の場所で活躍してきた方に魅力があるというか、いい意味でのキャリアチェンジを果たせると思います。今の若い人は転職に抵抗がなく、「ここの会社に入ったら面白そう」という感覚で入ってくる人もたくさんいます。

澤氏:面白そう、腕試しをしてみようという感覚で仕事を選べるのはいいことですね。「べきである」という考えに縛られる必要はありません。

志済氏:仲間になってくれたデータサイエンティストなどのデジタル人財が、入社後に研究コミュニティに溶け込めるような配慮もしています。仕事をする上では、何人も仲間がいて、ああでもないこうでもないと言って切磋琢磨することが重要だと思っていますから。研究者へのプログラミング教育や、部署内に複数名のデジタル人財を置くことなどを通じて、デジタルな価値観は会社に馴染んできています。

この記事の筆者

株式会社JAC Recruitment 編集部

株式会社JAC Recruitment

 編集部 


当サイトを運営する、JACの編集部です。 日々、採用企業とコミュニケーションを取っているJACのコンサルタントや、最新の転職市場を分析しているJACのアナリストなどにインタビューし、皆様がキャリアを描く際に、また転職の際に役立つ情報をお届けしています。

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