近年、業績が堅調な大手企業であっても、中長期での組織戦略に基づいて早期退職制度・希望退職制度を実施するケースが増えています。早期退職・希望退職をする方々の転職事情、転職成功のポイントについて、数多くのご転職者様のご支援を行ってきた、JAC Recruitment(以下、JAC)のコンサルタントがお伝えします。
目次/Index
早期退職・希望退職制度とは?
「早期退職制度」は、福利厚生として活用されることが多い傾向にあります。最近では、定年まで1つの企業に勤め上げる終身雇用制度は崩壊しつつあることが現状です。また、転職や企業、アーリーリタイヤなど、働く人が理想とする人生を実現することを目的として、早期退職制度が導入されている企業が増えています。また、組織の若返りや人件費抑制などを目的としている企業も多いようです。早期退職制度は希望する社員が自主的に退職できる制度となっており、定期的に募集されることが特徴です。
「希望退職制度」は、期間を限定して退職希望者を募ることが早期退職制度との違いです。希望退職制度については、経営悪化にともない人件費を抑制するための施策として実施されることが多い傾向にあります。
・選択定年制との違い
選択定年制は60〜65歳の間で、自分自身で定年退職する年齢を決められる制度です。
早期退職制度・希望退職制度については、定年前に退職することが前提とされています。しかし、選択定年制においては定年まで勤めることが前提です。
早期退職・希望退職後の転職事情
早期退職・希望退職制度を利用した方々の転職においては、通常の転職とは異なる特徴があります。その一つが、「早期退職・希望退職者を中心に見据えて、採用に乗り出す企業がある」ということです。
早期退職者を見据えて、採用に乗り出す企業もある
大手企業が早期退職・希望退職者の募集を開始したニュースが流れると、私たち転職エージェントのもとには「この会社の早期退職者を採用できないか」というご相談が寄せられるケースがあります。
そう考える企業は、その会社のライバル企業であったり、あるいはパートナー企業であったり。また、新規事業を計画にするにあたり、その会社のノウハウを生かせることを期待する企業もあります。主には中小企業が「大手のノウハウを取り入れたい」と考えるのです。
採用ポジションは会社によってさまざまです。管理職として組織マネジメントを任せたいとする求人もあれば、役職は付かず「スペシャリスト」としての活躍を期待する求人もあります。
「この部署のこのチームに配属」という具体的なポジションを設定する一方、なかには「○社の方が当社に来てくれるのであれば、その方の専門性に応じて新しい部署を作るので、新規事業を立ち上げてほしい」といったケースもあります。
ただし、こうしたポジションへの転職を果たす方は、一部に限られるのが現実です。
もちろん、求人側が求める経験・スキルがマッチするかどうかによりますが、「行動が早いか遅いか」によっても、転職の成否が左右されます。
早めの情報収集が不可欠
早期退職が通知され、早い段階で退職を決断して転職エージェントに相談に来られた方は、先ほど挙げたように「この会社の方が転職市場に出てくるなら採用したい」という企業に出会い、転職が決まる可能性が高まります。
一方、申し込みギリギリまで退職を決断しない方、あるいは退職を決めたものの「しばらく骨休めをしてから、次の道をゆっくり考える」という方は、転職活動に動き出したころには、すでに採用枠が残っていないこともあります。
つまり、前職でのポジションや実績に関わらず、「早い者勝ち」が起こり得るというわけです。
こうした事実を踏まえ、少しでも早期退職の可能性を考えた場合、なるべく早めに情報収集を開始することをおすすめします。
そもそも「ミドル・シニア層」の採用は積極化している
そもそも「ベテラン」であるミドル・シニア層の中途採用については、以前に比べて積極的な企業が増えています。
日本の労働人口が減少に向かうなか、「年齢にばかり囚われすぎてしまっては、自社に必要な人材を獲得できない」と、多くの企業が気付いているのです。
早期退職・希望退職以外でも、私たちJACには40代以上の採用事例が数多くあります。
一例を挙げると、次のような役割が期待されています。
●プロジェクトマネジメントを任せたい
●受注は好調だが生産が追い付かない。仕組みを再構築してほしい
●品質向上のため、品質管理体制を作ってほしい
●大手の教育水準を導入し、若手世代を育成してほしい
実際、ミドル・シニア層を受け入れたことで成功している企業の事例も増えていることから、積極的な活用が促進されているのです。
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早期退職・希望退職のメリットや優遇制度
「転職」の観点から、早期退職・希望退職のメリットを考えてみましょう。メリットとデメリットをそれぞれ把握しておくことで、ご自身が今、早期退職・希望退職をすべきかいなかを冷静に判断することが可能です。
「割増退職金」+「転職」で生涯年収アップの可能性がある
たとえば「役職定年で年収ダウン+60歳で定年退職」と「早期退職で割増退職金を受け取る+転職で何割かの年収ダウン+定年70歳の企業を選ぶ」などの条件を比較した場合、後者の方が生涯年収は多くなる可能性があります。
会社から再就職支援を受けられる
会社が再就職支援サービスを手がける企業と契約していれば、転職コンサルタントが早期退職・希望退職者の転職活動のサポートをしてくれます。相談できる相手を用意してもらえるというメリットがあります。
また、独自での転職活動とは異なり、早期退職制度を利用すれば、日中の業務時間内の転職活動が許されます。転職エージェントとの相談にも、応募企業の面接にも、十分に時間を投じることができます。
セカンドキャリアのスタートがしやすい
早期退職を選ぶ理由の一つは、定年退職するよりもスムーズにセカンドキャリアをスタートできる可能性が高いことです。
40代や50代での早期退職であれば、自身のスキルとキャリアを十分に活かせる場がたくさんあります。より良い条件で働きたい、あるいはスタートアップやベンチャー企業で新しい役職に挑戦したいという場合でも、40代や50代であれば十分にセカンドキャリアとしてスタートできる可能性があります。
有給休暇の買い上げ
早期退職を考える際には、未使用の有給休暇も重要なポイントとなる場合があります。理想的には、退職日まで全ての有給休暇を使い切るのがベストですが、残り日数が多かったり、退職日が急に決まった場合などはその消化が難しいこともあります。
このような状況で使えるのが、企業が有給休暇を買い上げてくれる制度です。このような制度を活用することで、未使用の有給休暇が無駄になることを防ぐことができます。
具体的な計算方法は企業によって異なりますが、一般的な方法として以下のようなものが考えられます。
・一日当たりの固定金額方式:この方式では、1日分の有給休暇に対してあらかじめ決められた金額が支給されます。たとえば、1日10,000円などと決められている場合、5日分の有給休暇が残っていれば50,000円が支給されることになります。
・基本給・基準内賃金に基づく方式:この方式では、社員の基本給や基準内賃金を基準に1日分の金額を計算し、その金額を有給休暇の日数に応じて支給します。この方式を選ぶ企業が多いですが、計算がやや複雑になる場合もあります。
これらの有給休暇の買い上げも、早期退職のメリットの一つと考えることができます。
勤務の免除
早期退職が決定した際、社員は新たな就職先を探したり、関係各所への挨拶回りや退職に関連する各種手続きなどのタスクが待っています。これらは、スケジュール的にタイトで、精神的にもストレスがかかる場合が多いです。
このような背景を考慮し、一部の企業では早期退職者に対して勤務を免除する制度が設けられています。この制度は、企業によって詳細が異なりますが、早期退職が決定した日から退職する日までの全日数を軽減する方法や、一定の日数を設定する方法があります。
このような取り組みは、早期退職者の心理的負担を軽減するだけでなく、新たなキャリアへのスムーズな移行を支援するものとして、有効なサポートであるといえます。
早期退職・希望退職のデメリット
一方、早期退職・希望退職に伴う転職には、デメリットもあります。以下のポイントを認識しておき、マイナスの方向へ進むことのないよう気をつけてください。
転職市場に、ライバルが一斉に現れる
先にお伝えしたとおり、早期退職・希望退職者を狙った求人も出てきますが、同様の知見・スキルを持つ人材が一斉に転職市場に流れ込むため、ライバルが多い状態です。
少しでも早く転職活動を開始することで、有利に進められる可能性があります。
デッドラインが迫るにつれ、焦りが募る
早期退職制度を利用するということは、今後のキャリア・人生を考えて決断することに対し「期限」が設けられます。迷っているうちに時間が過ぎ、焦りが生じると、冷静な判断が下せないこともあります。納得感がないまま結論を出すことで、後悔につながるかもしれません。
また、早期退職制度の告知があり、制度利用を決めた後に転職エージェントに相談するのではなく、早期退職の告知があった時に、まず転職エージェントに相談してみることをおすすめいたします。1人1人によって、制度を利用すべきか否かは異なります。そのため、ご自身が制度を利用すべきかどうか、まず転職エージェントに相談して、客観的に判断を仰いでみてはいかがでしょうか。
友人・家族との対話でもいいのですが、友人・家族の意見には主観や感情が混じることも多いです。そのため、客観視することが可能な転職エージェントなどを活用し、対話してみるとより納得感のある選択が叶います。
離職後、ブランクが長引くリスクがある
転職先が決まらないまま早期退職・希望退職すると、想定より離職期間=ブランクが長引いてしまう可能性があります。ブランクが空くほど、採用選考では不利になる傾向があります。
ブランクの長期化を防ぐためにも、早めに転職活動を開始することが大切です。
さらに、早期退職・希望退職を経ての転職では、ご自身と類似したキャリアを持つ方が多数転職市場に流れます。つまり、ライバルが多い中での転職活動となりますので、そういった観点からも、いかに早く開始するかが重要です。
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早期退職・希望退職に応じないととうなるのか
早期退職・希望退職に応じず、会社に残ったらどうなるかについても想定しておきましょう。
役職定年を迎えれば、給与・業務内容・裁量権などのグレード下がることは認識されているかと思います。しかし、自社の人事制度の詳細までは把握していない方は、意外と多いものです。今後の待遇、特に定年や再雇用に関する制度を確認しておいてください。
大手企業勤務の方々であれば、60歳以降の再雇用では年収が最高時期の3~4割程度になるケースが多いようです。ただし、年収ダウンは想定できていても、「役割」「仕事内容」は想定と異なる事態にもなり得ます。
実際、会社に残る道を選んだものの、数年後、自身の事業部門の撤退・縮小が決まり、不本意な部署に異動になってしまった…というケースは少なくないようです。
「自分の専門性を生かす場がなくなってしまった。これなら早めに、専門性を生かせる他社に移っておけばよかった」――そのような声をお聞きすることもあります。
先々の会社の戦略・方針まではなかなかつかみづらいと思いますが、自社の動き・社会の動きにアンテナをしっかり張っておくことが大切です。
また、「残る決断をするからには、この会社の方針がどうなっても受け入れる」と、覚悟を決めることも必要だと思います。
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早期退職・希望退職者は、求人企業からどう見られているのか
「早期退職・希望退職をすると、『会社から不要と判断された、能力の低い人』と思われるのではないだろうか?」という不安を抱く方もいらっしゃいます。
しかし、最近ではそのようなネガティブな捉え方をされることはありません。
社会構造が変化しているなか、「大手企業が中長期の経営戦略・人材戦略上、組織の再構築を行うのは当然」と認識されています。ただし、早期退職・希望退職を決意した理由と、次のキャリアに対する考え方については、シビアに見られています。
新たな目標を設定していなかったり、主体性がなく「何かお手伝いできることがあれば入社します」といった受け身姿勢であったりすると、ネガティブな印象を持たれるでしょう。
早期退職・希望退職による転職を成功させるポイント
数々のご転職者様をご支援してきた中で、ご自身にとって良い転職をされた方には共通点あると感じます。この項では、転職成功の確率を高めるために心がけておきたいポイントをご紹介します。
早めに動く
ここまでもお伝えしてきたように、大手企業の早期退職・希望退職の場合、転職活動は「早い者勝ち」「椅子取りゲーム」のような状態になることがあります。
少しでも早く行動を起こすことで、希望のポジションを獲得しやすくなるでしょう。
「何がやりたいか」を明確にする
大手企業で20年~30年と勤務してきた方は、会社の意向・方針に従ってキャリアを歩んできたと思います。
しかし転職活動においては、「自分にはこのスキルがあります。御社でいかようにでも利用してください」といった受け身の姿勢では、マイナスに捉えられることが多いものです。
同様に「いろいろやってきたので、何でもできます。何でもやります」も、一見意欲的に見えますが、本人の意思や目標が伝わりません。「自分は何をやりたいのか」「自分の強みを生かして、会社にどのように貢献したいのか」を主体的に考え、前向きな意欲を面接で伝えられるようにしてください。
必要に応じて条件を緩和する
大手企業から中小企業に移るとなると、年収ダウンは避けられないケースが多いものです。前職の給与水準のイメージを引きずらず、自身の生活やライフプランに「本当に必要な金額」を算出して、「ここまでなら下げられる」というラインを明確にしてはいかがでしょうか。
また、勤務地の要件を緩和すると、選択肢が広がります。地方には、首都圏でビジネス経験を積んだ人の知見・スキルを求める企業が数多くあります。
JACで転職を支援した事例をご紹介しましょう。
関西在住のAさん(50代)は転職活動に際し、「自宅から勤務したい」と関西圏内の求人を探していました。
しかし選択肢が少なく、「もともと転勤族だし、全国どこでも行く」と腹をくくり、勤務地要件を緩和したのです。結果、ご縁が結ばれたのは群馬の企業でした。
入社後、力を発揮したAさんは、その後、中国法人の社長まで任されることになりました。「前職では、社長になるなんて考えもしなかった」とのことです。
1つ要件を緩和したことで、新たなチャンスに出会い、思いもよらないキャリアを築かれたという点で、印象に残っている事例です。
最近では、地方企業でもリモートワーク環境が整備されています。首都圏在住のまま、「基本はリモートワーク、出社は月に何回かでOK」という求人も出てきていますので、検討してみる価値はあるといえます。
「成果」「チャレンジ」の経験を伝える
選考に臨むにあたっては、「どんな仕事をしてきたか」だけでなく「どんな成果を挙げてきたか」を伝えてください。アピール力が強い成果がなくても、「こんなチャレンジをした」という経験を語れるようにしておきましょう。
ミドル・シニア層を受け入れる企業側は、会社にプラスの影響を与えてくれることを期待しています。
「成功体験を再現できる方」「果敢にチャレンジできる方」と思われれば、期待が高まり、採用に至りやすくなります。何より、ご自身が「チャレンジする」というマインドで望む方が楽しいと思います。
長年勤務した会社を辞めるということは、社内で築いてきた人脈も、社内独自のルールで業務を回すスキルも捨て、リセットすることになります。「それを捨ててでも得たいもの」を見据え、新たなチャレンジに向かってはいかがでしょうか。
雇用条件を確認する
応募した企業から内定が出た場合、事前に雇用条件を確認してください。もしも、雇用条件の確認を怠ってしまうと、入社してからミスマッチが発生するおそれもあります。そうなると、早期退職したことを後悔してしまうかもしれません。
雇用条件は、内定時に渡される「労働条件通知書」にて確認できます。こちらは、仕事内容や給与額などが記載されている書類です。
また、内定の承諾については、口約束だけでも成立することに注意しなければなりません。
福利厚生についても要チェック
転職先を決める場合、福利厚生の内容についてもチェックしてください。全ての制度を使うことはないかもしれません。しかし、どのようなものがあるかだけは、目を通しておくようにしてください。
しかし、厚生年金・雇用保険以外の法定外福利は、会社の経営方針ひとつで内容が変わる・廃止されるおそれがあります。福利厚生の内容だけで転職先を決めるのは考えものです。
転職エージェントのサポートを活用する
早期退職・希望退職には、メリットもデメリットもあります。その内容は人によって異なります。迷ったときは転職エージェントのコンサルタントと対話し、悩んでいるポイントを言語化・数値化して整理することをお勧めします。
転職活動をする場合、求人企業の採用背景、求める人物像はさまざまです。求人票を見ていても、実態がつかめないことが多いものです。そんなとき、転職エージェントを持つ情報を活用してください。
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