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Web3.0時代のマネジメントはどう変わる?
澤円氏と考える、新時代を生き抜くためのマインドセット

公開日:2024/01/29 / 最終更新日: 2024/08/22

今の時代を表す言葉として注目を集めるWeb3.0(Web3)。マネジメントの視点で見ると、上下関係が明確な組織から、コミュニティへの変化を象徴するキーワードとしてもとらえられます。Web 3.0時代におけるマネジメントの手法やマインドセット、そしてキャリアはどのように変わっていくのでしょうか?

JAC Digitalアドバイザーであり、自身も世界的外資IT企業の業務執行役員に就任し、現在は独立してキャリアに関するセミナーを数多くこなす澤円氏にご登壇いただき、ご自身の経験などをまじえながら、Web3.0時代のマネジメントについて考えていきます。

※ 本記事は2023年1月25日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。


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Web3.0は1960年代に予言されていた?


1969年公開の映画『イージー・ライダー』(※1)を見て、驚くことがありました。ジャック・ニコルソン演じるキャラクターが「地球にはたくさん宇宙人がいる」と言い出し、次のようなことを語ったのです。宇宙人は地球人に混じって暮らしているが、見分けはつかない。彼らの社会には通貨制度がないし、指導者はおらず全員が指導者である。高度なテクノロジーのおかげで、戦争もなく満たされた生活を送っている、と。ここで語られた社会のあり方は、まさにWeb3.0の世界観そのものだったのです。国家の信用に基づく通貨とは異なる仮想通貨を予見していると考えられるし、全員が指導者という社会はDAO(非中央集権型組織)に通じています。テクノロジーに対して明るい期待を抱いていることもわかります。

※1 原題『Easy Rider』は、1969年公開のアメリカ映画。日本では1970年に公開され、『イージー☆ライダー』『イージー★ライダー』と表記されることもある。

映画が公開された当時のアメリカは、ベトナム戦争によって大きく疲弊していました。愛と平和を叫び、自由を求めた人たちは、サンフランシスコを中心としてヒッピー文化を育み、シリコンバレーで多くのテクノロジー企業を生みだすことになります。世の中が混乱すると、多くの人たちがテクノロジーの可能性を信じて、そこに救いを求めるのです。

今もまさに、世界中がCOVID-19によって疲弊している時代です。移動が自由にできない世界になりましたが、人類にはデータと通信というテクノロジーが残されていました。2020年を「リモートワーク元年」として、会社にいることと仕事をすることが切り離され、ここ数年で働くことの価値観が大きく変わってきました。

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すべての企業はテクノロジーカンパニーになる


COVID-19がもたらした大きな変化は、デジタルが交通に代わる人類のインフラとして、私たちの生活に一気に浸透したことです。

多くの方がECサイトを利用する際、実際のモノだけでなくデジタルのコンテンツを当たり前のように購入するようになりました。街中でレストランを見つけたときにも、まずはスマートフォンでメニューや評価を調べる方が多いのではないでしょうか。僕はこうした変化を、「人はデータを信じる生き物になった」と表現しています。

人類が月に行けたのも、データを信じたからです。アポロ13号は徹底的にデータドリブンなシミュレーションに基づいて打ち上げられました。トラブルで宇宙に取り残されてしまった際にも、その場で素早く計算を行うことで、地球に戻る算段をつけたのです。僕は昨年のF1日本グランプリを見たときに、イギリスのチームが車の走行データをリアルタイムに取得・解析し、デジタルの世界でシミュレーションしていることにとても興奮しました。まさに実体とデータが同時に存在する、デジタルツインの実例です。F1はもはや単なる自動車産業にとどまるものではなく、テクノロジーの競争なのだと感じました。

デジタルツインによって人間の世界が拡張されるとともに、「データになっていなければ、この世に存在しない」という状況になっていると言えるかもしれません。街中のレストランの例でも、スマホの検索に表れなければ知らない人にとっては実店舗は存在しないのと同じですよね。

僕はよく「データにならなければこの世に存在しないのだから、すべての企業は必然的にテクノロジーカンパニーになる」と話しています。あらゆる業種・業態がテクノロジーに投資することで、テクノロジーが進んでいき、Webの世界も進化を遂げてWeb 3.0 の世界がやってくるわけです。

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個の時代であるWeb3.0と、それを支えるNFT/DAO/メタバース


僕はWeb3.0を「個の時代」と呼んでいます。そこで表れる概念について簡単に説明しましょう。NFTはNon-Fungible Tokenの略称で、交換ができない、唯一無二製が保証されているトークンです。DAOは Decentralized Autonomous Organization、非中央集権型組織のことで、まさに個の時代を象徴するような組織体を指しています。最後にメタバースは、超越を意味する「meta」と世界を指す「universe」を組み合わせた、「超世界」を表す造語です。

Web3.0の世界では、これまでと異なる通貨のあり方が重視されています。歴史をたどると、まず人間は物々交換の世界から、金をベースにした取引(金本位制)に移行し、貿易が行えるようになりました。その後、物質としての金を扱うことの難しさから、国家が発行する通貨をベースにしたやりとり(国家信用本位制)が生まれました。ここに為替が加わることで、外貨との交換などもできるようになりました。

そして、技術信用本位制が登場しました。金という物質や国家という組織ではなく、ブロックチェーンという技術が信用できるから取引を認めるという考え方が、NFTや仮想通貨を成立させています。これまで商品やサービスの価格は企業や行政、法律などによって中央集権的に決められてきましたが、技術信用本位制においては、ブロックチェーンを介した取引の集積によって、さまざまなことが決まっていきます。

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ヒエラルキーによる管理から、コミュニティマネジメントへ


キャリアの描き方について考えてみましょう。このグラフは縦軸が地位・肩書で、横軸が年齢です。青い矢印のように右肩上がりで考えていると、赤い矢印のような人が現れた時に、つらい気持ちになります。自分よりも急角度で上がっていく人がいると、嫉妬に化けてしまいます。

だからこそ、キャリアは2次元で考えるのではなく、上下関係のない宇宙空間のようなものだととらえてください。マネージャーという仕事も、マネジメントをする係でしかありませんから、「上司」や「部下」という上下関係を前提にした表現には違和感を持ちましょう。昇給と昇格が一緒になりがちな日本の会社では、給料をアップさせるためにチームを持たせる「マネージャー名誉職問題」も根強いですが、マネージャーは偉くもなんともありません。キャリアという宇宙空間の中で、たまたま今はマネージャーという星で職務を負っているのだと考えた方が、僕は健全だと思います。

キャリアを立体的に考えるためには、会社という箱の中だけで自分を測るのではなく、社内の肩書きが通用しないようなコミュニティなど、どんどん外に出て自分の価値を試してください。そうしないと、どうしても名刺や肩書きにプライドを持つような生き方になってしまいます。仕事にプライドを持つのは大いに結構ですが、肩書きという文字列にこだわるのは危険だし、くだらないことだと思っています。マネージャーという肩書きを得たからといって、そこにプライドを合わせないでください。

僕の親しい友人たちが書いた『ファンをはぐくみ事業を成長させる 「コミュニティ」づくりの教科書』(河原 あず氏と藤田 祐司氏の共著)という本を紹介させてください。この本では「参加者一人ひとりが目的意識を持って能動的に関わっている」状態や、「参加者同士で対等にコミュニケーションができる」場をコミュニティと呼んでいます。

一人ひとりが能動的に関わり、対等なコミュニケーションが行われるコミュニティでは、今までのようなヒエラルキーがどんどん崩れていきます。そこでは管理者という存在もナンセンスになるでしょう。そもそも管理は機械の方が得意ですから、人ではなく技術に任せればいいわけです。しかし、日本の組織では昇給と昇格が一緒になっているため、ただの役割であるはずのマネージャーを偉い立場だと勘違いしてしまう人もいます。当然のことですが、人の能力は年齢に比例して上がるものではありませんし、上司や部下という言葉自体にも違和感を持ってほしいと思います。

先ほど紹介した本では、「ビジョンを決めること」が「コミュニティマネージャー」の大切な仕事として紹介されていますが、これは企業で働くマネージャーの仕事そのものでもあります。自分が所属している組織の掲げるビジョンや社会貢献の視点と、一般社員が見ている最も解像度の高い世界を、仕組み化と運用によってつながるように目印を立てること。また、そこに到達するまでの道を先回りして掃除して、メンバーに全力疾走してもらうことがマネージャーの仕事です。

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これからのマネージャーは「コミュニティの一員」であれ


マネージャーの最も重要な仕事である1on1では、心理的安全性が保証されていることが絶対条件です。Web3.0時代のコミュニティという視点で考えても、安心して楽しめない場所に入りたいとは思いませんよね。心理的安全性を作るためには、自分の失敗談を開示することがいい手段です。「ほかの人に見下されるのではないか?」と心配する人もいますが、そもそも全員を束ねあげる必要などないのですから、苦手なことはどんどん共有していきましょう。

中には「自分の背中を見せて部下を育てる」ことが自分のマネジメントスタイルだという方もいるかもしれません。しかし、社会人経験が20年を超えるような人は、本当に誇れる背中であるかどうか、今一度考えてみてください。僕は自分の背中を見せて、その通りにやればいいだなんて、とても言えません。なぜなら「失われた30年」をつくったのは我々だからです。さらに上の世代や政治を引き合いに出したくなることもありますが、それでもリカバリーできなかったのは自分達の力不足だと考えた方がいいと思います。

コミュニティはコミュニケーションがあって成り立つものですから、マネージャーであっても、チームの一員として振る舞うことが大事です。「自分はマネージャーだから」と線を引いて限られた仕事以外は一切やらない、という姿勢は嫌われます。これまで命令や指示として行われていたものがコミュニティ化していき、横のつながりによって社会貢献をしていくのがWeb3.0時代の企業のあり方です。コミュニティは参加する全員で作るものですから、そういうマインドを持てない人は、残念ながらWeb3.0時代のマネージャーにはなれないと思います。

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質疑応答


Q.Web3.0の時代に入ることで廃れていくと澤さんが考える領域や分野はあるでしょうか?

DAOが増えていくと、いわゆる管理職的な職能はどんどん廃れていくでしょう。コミュニティを運用していく能力と、上がってくるファクトを取りまとめる能力はまったく別物ですから。Web3.0時代のマネージャーには、コミュニティマネージャーとしての役割が求められるようになると思っています。日本は変化の遅い国ですが、遅かれ早かれ旧態依然とした管理職的な仕事は廃れるでしょうし、もしそこで廃れなければ、日本という国は本当の意味で終わると思います。

Q.澤さんのお話をおうかがいすればするほど、現職のマネージャーは理想とは程遠い存在だと感じます。マネージャーの出来と自分のパフォーマンスは別というお話がありましたが、このような場合、その会社での勤務を継続するか、もしくは在籍期間を気にせずにすぐに転職した方がいいか、どうお考えでしょうか?

こうした判断をするときには、一番大きな問題だけにフォーカスするため、余計なパラメータを増やさないようにしましょう。今回は「在籍期間を気にせずに」という箇所は不要です。そして、マネージャーがどうであれ、やりがいのある仕事でパフォーマンスを出せていて、正当に評価をされているのであれば、無視すればいいですよね。自分の仕事やパフォーマンスが正当に評価されずに、十分な報酬も得られてないと思うのであれば、転職か、もしくは同じ会社の中での転部を検討してください。

Q.今日のセミナーの内容は共感できる部分が多く、実践しているorしたいと思っていることが多いのですが、まだ同じような考えの人は少ないと感じています。周りに浸透させていくには、どこから手をつけていくのがいいでしょうか?

まずはご自身がエバンジェリストになってみてください。また、外から人を呼んで経営陣たちとラウンドテーブルを組んだり、講師派遣のサービスからその道のプロを呼んで講演や面談をしてもらったりと、外部の力を借りることも効果的です。外部の人に語ってもらうと、内部の人は「私もそう思っていたんだよ」と言いやすくなるので、合意を得やすくなると思います。

Q.Web3.0時代の管理職の考え方に共感しましたが、一般職ではなかなか声が届きにくいと感じます。旧態依然とした管理職に対して、新しい管理職像を示すにはどういう行動をするといいでしょうか。

先の質問でも答えた通り、ロールモデルとして外部の人を連れてくることは有効な手段の一つです。また、管理職の人に対して、プロデューサーのように声をかけてみてはいかがでしょう。「今のあなたのやり方が不満です」と言うと受け入れられづらいですが、「こういう振る舞いをしてくれると、格好いいと思います!」と伝えれば聞き入れてもらいやすいでしょう。相手を持ち上げつつ、その気にさせるようなプロデュースをしてあげるのも一つのアプローチです。

Q.澤さんが考えるマネージャーの醍醐味、やりがいは何だと思いますか?

一言でいうと、個人ではできないレベルの仕事ができることです。チームでしかできない仕事に取り組み、成功を定義して、それに向かって突き進んでもらう。成功したときの達成感は個人よりも大きくなりますし、それをチームで喜べる場を用意できることが一番の醍醐味ですね。


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この記事の監修

澤 円氏

澤 円

株式会社圓窓


株式会社圓窓 代表取締役。元日本マイクロソフト業務執行役員。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。2021年4月より株式会社JAC Recruitmentデジタル領域アドバイザーに就任。





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