金融領域のITサービスを提供するフィンテックが近年急成長しています。キャッシュレス決済や会計・財務・経費精算、資産運用、仮想通貨など幅広いビジネス領域に、さまざまな企業が参入しています。
今後も急拡大が見込まれるフィンテック業界の転職市場動向について、JAC Recruitmentのフィンテック専任コンサルタントが解説します。
目次/Index
フィンテック(FinTech)とは?
フィンテック(FinTech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。
銀行や証券、保険などの金融領域のビジネスに、IT・デジタルを組み合わせることで、新たなビジネスやサービスを創出することを指します。
主なサービスとしてはQRコード決済などのキャッシュレス決済サービスや会計・財務・経費精算関連のSaaSなどが挙げられます。また、近年はインシュアテックや資産運用のロボアドバイザー領域も急速に伸びています。
フィンテック(FinTech)業界の最新トレンド
キャッシュレス決済
PayPayや楽天ペイ、メルペイなど、日本でもメジャーな決済手段となりつつあるキャッシュレス決済ですが、利用率が50%を超える諸外国が多い中で、日本の利用率は30%台といまだ伸びしろがあります。政府も後押ししている状況であり、一定の淘汰が進んだとはいえ、今後もサービス間のシェア獲得競争は加熱していく予測です。
また、PayPayポイントや楽天ポイント、dポイントといった「ポイント経済圏」との連携や、キャッシュレス決済を切り口にあらゆるサービスを一つのアプリで完結させるスーパーアプリ構想など、現状に留まらないかたちでサービスが発展していくことが見込まれます。
エンベデット・ファイナンス
エンベデット・ファイナンスとは非金融事業を展開する企業が、自社サービスの中に金融サービスを組み込むことを指します。国内ではファーストリテイリングの「UNIQLO Pay」やファミリーマートの「ファミペイ」、ヤマダデンキと住信SBIネット銀行による「ヤマダNEOBANK」などが事例として挙げられます。
こうしたサービスは民間企業だけでなく、地方自治体も地元経済の活性化を目的に独自のキャッシュレス決済サービスを提供するなど、その裾野は今も広がっています。一方で金融機関もBaaS(Banking as a Service)のプラットフォーマーとして、非金融企業に金融サービスを提供するビジネスを進めています。今後はメガバンクに留まらず、地方銀行もBaaS領域に進出していくことが予想されます。
法人カードビジネス
企業間決済では約94%が銀行振込※1という状況ですが、近年はフィンテック企業が法人向けクレジットカード事業に相次いで参入し、クレジットカード決済のシェアを伸ばそうとしています。
会計・財務SaaSのfreeeやマネーフォワード、LayerXはユーザー企業向けに法人カードビジネスを提供しています。また、これまでに700億円以上の資金調達を果たしているUPSPIDERのように、法人カードビジネスのスタートアップ企業が急成長するケースも生まれています。
個人決済の市場規模は約281兆円に対して法人決済の市場規模は1000兆円と3倍である一方で、法人クレジットカード保有率はアメリカが51%に対して日本は21%、カード決済比率はアメリカが21%に対して日本は1%と大きな開きがあります。
今後、銀行以外の企業が法人決済ビジネスに参入することで、大きなゲームチェンジが起きる可能性も十分にあります。
※1 アメリカン・エキスプレス「2022年度 中小企業の企業間決済に関する調査」より
※2 PwCコンサルティング「法人クレジットカードビジネス強化に求められるデータ利活用」より
上記以外にも決済機能に欠かせない生体認証技術の発展も、今後注目するべきトレンドです。顔や虹彩、指紋、静脈などによる生体認証の活用は不正利用などの金融犯罪リスクの低減や、スマートフォンなどのデバイス無しで決済を可能にするなど、さまざまな可能性を秘めています。
金融業界のフィンテック(FinTech)
金融機関におけるフィンテックのトレンドとしては、データの利活用が挙げられます。
銀行は膨大な購買データや個人情報を抱える一方で、それらを有効に利活用できていませんでした。近年はデータを活用した新規事業や既存業務のデジタル化を進める一方で、海外へ商圏を広げるべく、アジア・パシフィック圏へ積極的に進出しています。
一方で信託銀行は不動産や相続、証券代行など幅広いサービスを提供しています。少子高齢化が進むことから信託銀行の社会的な存在意義は年々高まっており、組織の若返りを目指して積極的に中途採用を進めると同時に、デジタル化への対応を進めている最中です。三井住友信託銀行では資産運用や遺産相続にブロックチェーンを活用し、業務の迅速化を図るといった実証実験を行ったケースがあります。
また、生保・損保や事故や災害、疾病に関するデータを保有しており、予防に焦点を当てたヘルステックにも注力しています。がん保険で世界トップシェアを誇るアフラックでは、がんに関する膨大なデータを活用し、医療機関や自治体、DX関連のスタートアップと連携しサービス開発を進めています。損害保険でもドライブレコーダーから収集したデータや災害に関するデータを活用し、防災、減災、気候変動リスクに関するサービスを手掛けるなど、これまでとは異なるビジネスが立ち上がっています。
フィンテック(FinTech)業界の求人・転職市場動向
最も募集の多いポジションとしては事業企画やプロダクトマネージャー(PdM)が挙げられます。いずれの企業においても成熟期を迎えたプロダクトは無く、常に新しい機能の構築や既存機能・サービスの改善・グロースに注力しています。古いシステムを新しいものへと刷新するマイグレーションに関するプロジェクトが多いため、全体最適を考えてシステムの要件を定義できるITアーキテクトのスキルを持った方の需要が伸びています。
一方で技術サイドでは、従来からのアプリエンジニア、インフラエンジ二アに加えて、データエンジニアやデータアナリストの需要が高まっています。大量の購買・決済データを解析し、ユーザーにとって利便性の高いサービスへと還元させるうえでも重要なポジションです。また、バックエンドエンジニアも慢性的に不足しており、どの企業でも常に即戦力人材やマネージメントまで担える方を求めています。どの企業でも既存サービスの開発を継続しつつ、新規サービスや新規事業への参入を並行して進めており、デジタル系人材の需要は今後も伸びていきます。
また、金融機関ならではの特徴としてはサイバーセキュリティ関連の採用も非常に活発です。近年、複雑化するサイバー攻撃に対応するべく、独自にSOC(Security Operation Center)を内部に設ける企業も増えています。
一方で新規事業領域ではターゲットとする業界で、0→1の事業立ち上げを経験した事業企画・開発人材を積極的に募集しています。デジタルを活用した業務改善や最適化を図る企業も多く、BPR関連の求人も多数あります。
フィンテック(FinTech)業界のキャリアパス
スペシャリストとして自身の専門性を磨くパターンと、マネジメントとして組織を束ねる2つのパターンに分類されます。
スペシャリストのキャリアパスとしては現場で大規模なプロジェクトを担当するポジションだけでなく、更に事業やサービスの上流に携わるポジションを目指して、現場とは離れた立場で企画職として活躍するポジションもあります。
事業企画やPdMは、新規事業や新サービス開発に関わるチャンスの多いポジションです。入社当初は既存サービスを担当する場合でも、実績に応じて新規事業案件に関わることで、0から立ち上げる経験が得られます。
また、エンジニアも同様に新規事業や新サービスに関わる機会がある一方で、ブロックチェーンなど新しい技術に関わるポジションなど、単純なサービス・アプリ開発ではないポジションへのステップアップも考えられます。
その先のキャリアパスとしては、金融機関や大手Webプラットフォーマーなど組織規模がより大きな企業へ転職するケースもあります。また、HRテックや不動産テックといったクロステック領域への転職も考えられます。
先にご紹介したとおり、エンベデット・ファイナンスを通じて、今後フィンテック業界に参入する異業界企業も増えていくことから、フィンテック業界の経験は異業界でも高い評価を受ける可能性が高いです。
また、ご自身にアイデアと行動力があれば起業したり、共同創業者としてスタートアップに参画することも考えられます。
フィンテック(FinTech)業界の年収相場
JACが扱うフィンテック業界の求人における平均年収は2023年度で923万円、年収のレンジは500万円から2000万円程が多くなっています。
企業規模によって、同じ年収でも待遇が異なるのが一般的です。過去の求人を例にご紹介します。
大企業…管理職候補(主にマネージャー、課長クラス)、部下を持たない専門職
メガベンチャー…部長職、部下を持たない専門職
ベンチャー・スタートアップ…部長、事業責任者
大企業…幹部候補(主に部長クラス)
メガベンチャー…役員候補、スペシャリスト職
ベンチャー・スタートアップ…役員、CxOクラス
フィンテック(FinTech)業界転職で求められるスキル
クレジットカードのローン審査・カード申込審査、AML/CFT(マネーロンダリングやテロ資金供与対策)関連のポジションなど金融専門職であれば、審査業務の経験が求められます。これらのポジションは経験者採用が中心です。
例えば、銀行ではBPRや基幹システムのPMは業務フローからオペレーションまでの理解が求められますが、新規事業のポジションでは不要であり、担当するビジネス領域の知識が欠かせません。一方でセキュリティ関連のポジションでは商慣習や基幹システムに対する理解が求められます。
しかし、事業企画やPdM、エンジニアの場合には特殊なケースを除けば、金融業界の経験は必須ではありません。
それぞれのポジションで共通して求められるスキルとしては「仕組化」や「業務設計」、「事業構想力」や「折衝能力」が挙げられます。どの企業のサービスも現状が最適解ではなく、常にベストなかたちを模索している最中です。そのため、現状に対する課題意識を持ちながら、常により良いものへと改善してきた経験を持つ方はフィンテック業界でも高い評価を得られます。
また、フィンテック業界では社内関係部門や社外のパートナーに加え、金融庁など監督省庁との調整も必要な場合があります。ステークホルダーマネージメントの経験をお持ちの方は事業開発関連のポジションで有利に働きます。
エンジニア関連ではポジションに応じた一般的なスキルセットがあれば問題ありません。AIやセキュリティ、ブロックチェーン技術の経験を持った方は優遇されますが、高度なコンピューターサイエンスの知識が要求されることはありませんので、多くの方に門戸が開かれた業界とも言えます。
フィンテック(FinTech)業界転職で求められるマインドセット
フィンテック業界は歴史が浅く、いずれの企業でも事業開発や拡大に注力するフェーズですので、主体的に業務に取り組む姿勢や自らサービスを創出するマインドが欠かせません。誰にとっても身近な「お金」というテーマを扱うので、フィンテックが発展することへの興味関心も大切です。
またエンジニアの場合にはサービスの停止が許されないため、ミッションクリティカルなシステムと向き合う責任感が重要です。また、PMやマネージャーからの指示通りに開発するだけでなく、自分が手掛ける事業やサービスのあるべき姿を考え、エンジニアとして貢献するうえで必要な技術や言語を習得する向上心も重要です。
どのポジションにおいてもオーナーシップを持って業務に取り組むことで、新規事業や新サービスに関わるチャンスがあります。これから成熟期へと向かうフィンテック業界でキャリアアップを図るためには、強い責任感と主体性が欠かせません。
一方でスピード感が早く、変化の著しい業界でもあります。そのためにもフットワークの軽さも重要です。金融機関や大手メーカーなど承認フローが長い業界から来た方は、そのスピード感に戸惑うことがあります。また、ゲーム業界やコンシューマー向け製品の業界から来た方にとっては、事業が国内の法規制や金融庁の監督下にあることから制約が多いと感じるかもしれません。
制約がある中でなにができるかを前向きに模索するマインドをお持ちの方は、フィンテック業界でも活躍されています。
フィンテック(FinTech)業界の転職成功事例
ここでは、JACを通じてネット銀行から大手キャッシュレス決済サービス企業への転職に成功した方の事例を紹介します。転職のきっかけ・応募した企業・採用に至った決め手・年収アップ金額など、実例を元にお伝えします。
メガバンクの内定を断って、フィンテックの世界へ
Mさん(40代/女性)は大手ネット銀行のデジタルマーケティングを6年間担当。プロモーション戦略の立案から集客施策の実施、データ活用まで幅広く経験を積みました。しかし、マーケティング予算が年々減少し、やり甲斐を感じられなくなったことから転職を決意。
メガバンクから内定も得ていましたが、JACから紹介したキャッシュレス決済サービス企業への転職を決意しました。決め手となったのは新しい事業を自らの手で作り、日本の決済サービスのトップを狙うという攻めの企業カルチャーとスピード感。
フルリモートで働ける環境と風通しの良さにも魅力を感じて入社しました。入社時の年収は前年収とほぼ同額の880万円でしたが、3年間でリーダー、部長と昇進して、現在の年収は1000万円を超えています。
ITベンダーから保険会社への転職を実現
Kさん(40代/男性)は大手ITベンダーでプリセールスを担当。直近ではセキュリティ関連サービスの立ち上げからセールスを経験し、裁量を持って幅広く業務に取り組むことに手応えを感じていました。しかし、異動により再び細分化した業務に魅力を感じられず転職を決意。
当初はITベンダーを志望されていましたが、保険会社が新規に立ち上げるセキュリティ関連のポジションをJACのコンサルタントが紹介しました。大企業でありながら先進的な領域で企画から実運用まで関われることに魅力を感じたKさんと、企業担当者の思いが合致しスムーズに内定を獲得。年収も900万円から1100万円にアップし、金融機関での新しいキャリアをスタートさせています。
フィンテック(FinTech)業界の転職Q&A
Q. フィンテック業界での経験が無くても転職できますか?
A. 一部の金融専門職を除けば、業界未経験の方でも転職は可能です。営業ポジションでは提携先の自治体や小売業、製造業の経験が優遇されるケースもあり、異業界から転職する方も多数います。営業以外の職種においても様々なバックグラウンドの方がいます。
Q. 大企業やメガベンチャーの場合、親会社の意向に影響されやすいのでしょうか?
A. IT・Web系の企業では決済事業を中核に据えており、非IT業界においてもフィンテックへの進出を重要経営課題に掲げています。子会社であっても存在感は大きく、グループを牽引する中核企業として期待されています。
Q. キャッシュレス決済は既にサービスが成熟していて、この先にやるべきことが無い印象があります
A. いずれの決済サービスも証券や保険、O2O(加盟店向け事業)などの周辺サービスと連携することで、スーパーアプリ化を目指しており、今後も新たなサービスの投入が予定されています。また、キャッシュレス決済や、法人決済は海外と比較した際の普及率に差がある状況です。普及に向けた取組は今後の大きな課題でもあります。
Q. 金融機関は営業部門が強い印象があります。DXに対しても消極的であったり、反発が強かったりするのではないでしょうか
A. どの企業でもデジタルに関する予算を最低でも1.5倍以上増額し、中期経営計画でもDXを中心に据えるなど非常に高い優先順位で取り組んでいます。経済紙でのインタビューでも代表取締役自らDXの重要性を語り、経営会議ではDX関連のプロジェクトや計画が必ず議題に上がるなど、聖域なき改革が進んでいます。
フィンテック(FinTech)業界の転職ならJACへ
JACでは、フィンテック業界に特化したコンサルタントが転職をサポートします。企業の経営層からヒアリングした求人の背景にある課題や組織文化、活躍する人物像を、ダイレクトにお伝えすることでご自身にあった転職を実現しています。
これまでにフィンテック業界への転職を支援した方は延べ500人を超えており、当社を通じて入社した方が部長職やエキスパート職で多数活躍しています。成長著しいフィンテック業界への転職をお考えの方は、ぜひJAC Recruitmentまでご相談ください。