IPO準備企業における経理の転職|求められるスキル、メリット・デメリットを解説

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公開日:2024/11/08 / 最終更新日: 2024/11/18

IPO(株式上場)企業数は、政府のスタートアップ支援策の後押しもあり、堅調な増加傾向にあります。IPO準備を担当する経理の業務は、各種有価証券報告書などIPOに必要な書類の作成、監査法人からのショートレビューと改善、利益管理体制など各種体制の構築と運用、決済ルールの策定、内部統制監査や各種審査への対応など多岐にわたります。IPO経理の求人が多い背景、求人傾向、求められる経験・スキルについて、JAC Recruitment(以下、JAC)の管理部門専任コンサルタントが解説します。

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IPO準備企業の経理への転職の現状・求人の傾向について


内閣府が決定した「スタートアップ育成5か年計画」においては、経済産業省、文部科学省などが予算を確保し、創業直後段階の「プレシード・シード」、製品・サービスを市場に出す段階の「アーリー・ミドル」、事業拡大段階の「レイター」において、スタートアップへの資金供与だけでなく産学官連携や交流・育成、オープンイノベーションの推進などさまざまな支援を提供しています。

これらの支援や制度整備と並行して、国内のIPO企業数は2020年以降4年連続で100社を超えるなど、増加傾向にあります。好調な株式市場を背景に、今後もこの傾向が続くと予想されます。

近年IPO企業で多くを占めるのが、自社サービスを開発したIT企業です。大きな設備投資をせずアイデアひとつで始められる手軽さ、ビジネスの拡大のしやすさがメリットです。中でも「AI」「ビッグデータ」「SaaS」「クラウド」など話題のIT系キーワードが盛り込まれたサービスは、IPOでも人気が高い傾向があります。

IPO準備企業の経理で求められるスキルや経験・マインド


IPOの標準的なスケジュールは以下のように区分されます。

スケジュールの区分実施内容
N-3期以前(準備期間)監査法人の選定、主幹事証券会社の選定、ショートレビューの実施、ビジネスモデルの確立、経営計画の策定、組織運営体制など管理体制の構築 など
N-2期(直前々期)運営・管理体制の整備・運用、各種規程・制度の策定、内部監査制度の立ち上げ、管理会計・税務会計の整備、各種改善 など
N-1期(直前期)運営・管理体制の期首からの運用、各種規程・制度の策定、各種改善 など
N期(IPO申請期)上場会社としての運用の継続、申請作業、引受審査、上場申請審査 など

各種審査を無事通過すれば、上場が承認され、株式の売り出し価格を決定します。IPO後も会社の健全な成長を促していく必要があることは言うまでもありません。

IPO準備企業への経理としての転職については、IPOの達成経験があることが望ましいですが、さまざまな事情が絡み合った結果IPOを達成していない、もしくはN-2期やN-1期までに関わった経験でも構いません。IPOは各フェーズによって経験の内容が変わり、それに対応した業務を担当することができるからです。また、IPOの規模もあまり問われません。たとえ小規模な企業だとしても、IPOの経験があれば担当できるフェーズがあります。

スキルについては、公認会計士資格を持っていればIPO経験がなくてもIPO準備企業への転職が可能です。ただし、マネジメント職となると、IPO経験は必須になります。また、どのフェーズにおいても、資料作成能力や経営層へのプレゼンテーション能力が高いこと、関係部署との調整能力に長けていることもスキルとして有効です。

マインドとしては、「新しいものを自ら創りあげていく」という主体性・自立性が求められます。何もないところからのスタートですので、IPOに向けて計画、整備、実施しなければならない事柄は山積しています。また、ビジネスを意識して業務を遂行できる能力も求められます。IPO準備においては、経理は一般的な経理の業務内容よりも広範な業務を担当することになります。企業のビジネスに対する深い理解がなければ、IPOに必要な制度設計、組織運営体制や業務管理体制の構築と、それらを運営して改善するまでのプロセスを円滑に遂行することは難しいです。

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IPO経理の年収相場について


JAC経由でご転職された方の平均年収としては、以下の通りです。IPO準備企業は、区分としてはほとんどの場合、中小企業にあたります。そのため、同規模で非上場の企業より年収は高くなりますが、大企業よりは低い傾向です。

課長クラス800万円以上
部長クラス900~1000万円
管理部門全体を管掌1200~1500万円

なお、JACでは、マネジメント職に満たないスタッフクラスの成約もあります。その方ですと、年収相場はマネジメント職よりも低くなることがほとんどです。


上場すれば、上場企業のCFOへのキャリアの可能性が開かれます。また、CAO(Chief Administration OfficerまたはChief Accounting Officer)としての活躍も考えられます。

また、前述したとおりIPO準備経験のある経理は転職市場でもニーズが非常に高いので、経験を生かして他の企業へ転職することもできます。ただし、その場合はどのフェーズまでの経験を積んでいるかが重要になります。たとえIPOができなかった企業にいたとしても同様です。


IPO経理が転職するメリットやデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。

メリットとしては、上場することでステップアップしていくやりがいが挙げられます。IPOを実施するには最低でも3年以上の期間(N-3期以前からN期まで)が必要で、まずビジネスを事業計画や資本政策に落とし込み、実施します。また、その間に内部管理体制や開示体制などさまざまな社内制度を設計し、同時に社内規程や労働規約などさまざまなルールを策定し、それらを運用しながら改善して整えなければなりません。これらによって企業としての形を着々と構築・運用・改善していくダイナミックな動きは、IPO準備企業ならではと言えます。

経済的なメリットも考えられます。IPOによって企業価値が上がれば、それが給与やボーナスなど収入に反映されることは十分考えられます。また、ストックオプションが支給されるのであれば、IPO後に株式を売却することによって大きな利益を得られる可能性があります。

一方、デメリットもあります。IPO準備は非常に忙しいです。監査法人との契約、レビュー、会計データや証憑の整理、資産の棚卸などを、会社の制度設計・実施・改善と日常の実務を並行してこなさなければなりません。その過程で、経理が調整役として経営層と現場との板挟みになってしまうこともあります。

IPOが成功するか失敗するかは自分の力によらない点も挙げられるでしょう。さまざまな事情によってIPOが中止になってしまうこともあります。そうなれば社内の士気が下がったり、これまで投資をしてきたファンドが手を引いたりしてしまう可能性、経理がその責任の矢面に立たされてしまう事態もあり得ます。また、IPOの途中で経営層がバイアウトを選択した、バイアウトされてしまった場合は、再チャレンジは不可能になります。

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結論から言えば、可能です。ただし、公認会計士の資格を保有していることが条件になります。加えて、監査法人で何年か勤務していた経験があれば、スムーズに転職活動ができるでしょう。ただし、これはあくまでIPO準備を主導する立場の場合です。スタッフクラスの場合であれば、IPO準備の経験がなくても転職の可能性はあります。非上場企業と上場企業では経理の業務内容がまったく異なるため、非上場企業でスタッフクラスとして働いている方が、ステップアップとしてIPO準備企業への転職を希望する例もあります。

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IPO経理の転職に有利な資格としては、公認会計士のほかにUSCPAが挙げられます。また、税理士や日商簿記1級・2級も、持っているとプラスに働きます。


では、IPO準備企業へ経理が転職を成功させるにはどんなポイントがあるでしょうか。

経理の業務というと日々の取引記録や売掛金・買掛金の管理、月次の締め作業、決算業務などコツコツ進めるルーティンワークを思い浮かべがちです。しかし、IPO準備企業が求めるのはそういった方ではありません。プロジェクト単位での業務経験、例えば経理データを分析して会社のビジネス全体を俯瞰して課題を導出し、改善策を企画、提案した経験のような主体的なアクション、成果があると、IPO準備企業にとっては魅力的に映ります。

ただし、企画の策定、提案、進捗やリソースの管理などの経験は経理系のプロジェクトである必要があります。たとえ大規模なプロジェクトだとしても、経理業務に関係のないものではアピール材料としては使いづらいものになります。

どんな企業でも、経理は必要です。そのため、若ければ未経験でも転職は可能ですし、実務経験があれば同業種だけでなく異業種への転職も可能です。
しかし、IPO準備企業への転職を検討している際に「自分は経理希望だから、転職先企業がどんなビジネスでも構わない」「日常業務だけ淡々とできればよい」というマインドでは、転職活動はうまくいきません。IPO準備企業への転職は、手掛けるビジネスについてきちんと調べている、理解しているかが重要です。ビジネスを把握していないのであれば、IPOに必要な準備活動ができないからです。

転職希望者が「IPOができなかった結果、業績が悪化した」「マーケットがシュリンクした」などの理由で転職せざるを得ない環境になることもあります。しかし、それをそのまま話したのでは、転職先企業としては「なぜ私たちの会社を選んだのか」が明確にならず、転職希望者に対して不安な印象を抱きます。また、IPO経験をセールスポイントとして転職活動をすることは問題がありませんが、それをたびたび繰り返していると、転職先企業に「ジョブホッパーではないか」という印象を与え、「IPO後にすぐに辞めてしまうのではないか」「IPOができないとなったらモチベーションを下げてしまうのではないか」と懸念してしまいます。

IPO準備企業への転職を希望する方は、「ここで働きたい」という転職の理由を明確にし、「なぜならば」と明確なストーリーを持つ必要があります。ストーリーの構築でお困りの方は、ぜひJACのコンサルタントにご相談ください。

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Q. 本当にIPOできそうでしょうか?

A. IPO準備企業への転職希望者は、「IPOできる企業でなければ転職対象にしない」と考え、まずこの点を確認される方も多いです。しかし、IPO準備企業はビジネスの状況をすべて公開しているわけではありません。どのフェーズにいるかだけでなく、売上高や利益の現状、株主構成なども調べても開示されていない場合があります。JACのコンサルタントは、IPO準備企業の経営層とやり取りしており、開示可能な範囲の情報をもとにアドバイスすることが可能です。ぜひご相談ください。

Q. 忙しいですか?

A. IPO準備企業の経理は一般的な経理よりも多くの業務をこなさなければならないので、忙しいことは忙しいです。ただし、忙しさをコントロールしやすくワークライフバランスを取りやすい立場ではあります。

Q. ストックオプションは支給されますか?

A. ストックオプションの有無を転職先企業の選択基準にする転職希望者もいることでしょう。前述した通り、ストックオプションは行使することで莫大な売却益を得られることもあり、注目度の高いポイントです。しかし、転職先企業によってはインセンティブにストックオプションではなく従業員持ち株会を選択する場合があります。また、IPOしたからといってすぐに売却ができない、売却に制限をつけている「べスティング(権利移転)条項」を設けている場合もあります。「ストックオプション=確実な収入源」として転職条件を考えるのは、未確定の要素が多いのでおすすめできません。


ここでは、JACを通じてIPO準備企業への経理が転職に成功した方の事例を紹介します。

業種職種年収
転職前メーカー経理財務責任者1,500万円
転職後Webサービス経理財務責任者1,550万円+ストックオプション

Bさん(男性/40代後半)は大学卒業後公認会計士試験に合格、大手コンサルティングファームで働き、海外駐在経験やマネジメント経験もありました。その後、転職先の事業会社でIPOを達成させ、「次は先端技術系の企業の上場に携わり、さらにIPOのスキルを積みたい」と考えていました。

今回JACが提案したのは、データ分析環境の構築・運用に強みがあるIPO準備中のIT系企業S社です。S社はBさんがN-3期からN期までを経理の立場から主導したことを高く評価し、経理・財務の責任者として採用。Bさんとしても、将来の経営幹部への道が開かれ、年収アップの他にストックオプションも支給されたことで、納得のいく転職に至りました。

業種職種年収
転職前監査法人公認会計士1,100万円
転職後エネルギー系企業経理1,100万円+ストックオプション

Yさん(男性/40代前半)は公認会計士試験に合格後、監査法人で会計監査業務のほか、IPO準備企業に対する監査と支援などを担当。「将来は当事者としてIPOを達成したい」という意欲をひそかに持っており、家族ができたことを機に転職を決意、JACに登録しました。

今回JACからご紹介した企業の1つが、IPOに向けて社内体制を強化したい再生可能エネルギー関連ベンチャーです。Yさんは「注目度の高い新ビジネスにぜひ関わりたい」と興味を持たれました。JACからは詳細な情報を提供、Yさんは経理の管理職として内定を得ることができました。ストックオプションがついたことでやる気もアップ、現在はIPOを成功させるべく活躍しています。

転職成功の詳細は下記にてご確認いただけます。

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IPO準備企業への経理職の転職ならJAC


IPO準備企業は社内情報が一般に公開されていることは少なく、転職希望者の方が企業を検討する際に困ることがあります。JACのコンサルタントは、転職希望者と企業の両方を支援する「コンサルタント型」のビジネスモデルを採用しています。IPO準備企業の経営層とも密にコミュニケーションを取っており、企業の業績や組織、将来のロードマップなど、転職希望者が欲している情報を把握したうえで、転職のアドバイスをすることが可能です。
また、JACのコンサルタントはそれぞれ専門の担当領域を持っており、プライム上場企業、外資系企業、非上場のオーナー企業からスタートアップまで、幅広い企業から転職希望者に適したご提案をすることが可能です。特にIPOに関してはフェーズ別のご提案も対応しており、管理部門だけでも100社以上の成約実績を持っています。専門性の高さと広さも、JACのコンサルタントならではの優位点と言えます。転職をご検討中の方は、ぜひJACにご相談ください。

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年代・領域別経理の転職


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経理転職職務経歴書の書き方


経理転職の職務経歴書の書き方は下記記事をご覧ください。

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    「経理・財務」の職務経歴書を作成する際に役立つサンプル・テンプレートをご用意。職種別の書き方ポイントも解説しています。 経理の仕事は、伝票処理などの日常業務に加え、決算業務、税務業務、有価証券報告書作成業務などフェーズに… 続きを読む 経理・財務の職務経歴書サンプルと書き方

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この記事を監修した転職コンサルタント

岸本 裕司

岸本 裕司

コーポレートサービスディビジョン マネージャー

成長・変革を目指す中小企業は、管理部門領域で変革を求める際に、なかなか適切な人材が見つからないと悩んでいます。変革を巻き起こせる方に、変革してほしい企業にご入社いただき、ご活躍いただきたいと考えております。ぜひお気軽にご連絡ください。


大岩直矢

大岩 直矢

コーポレートサービスディビジョン マネージャー

管理部門職種×ベンチャー・スタートアップ・IPO準備領域専門チームの立ち上げにも参画し、チーム拡大に貢献。現在はマネージャーを務める。少しでもベンチャー・スタートアップ領域へのチャレンジをご検討であれば、ぜひお気軽にご連絡ください。



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