近年、チームビルディングやマネジメントの分野で「心理的安全性」が注目されています。
情報感度が高い経営者は、組織作りの理論や手法のトレンドの一つとして、「心理的安全性」の考え方を自社のマネジメントに取り入れようと考えている、または取り入れているようです。経営幹部候補人材やマネジメント人材を採用するにあたっても、それを実践できる人材を求めるケースは多々、見受けられます。
では、心理的安全性の高い組織マネジメントとはどういうものなのか、見ていきましょう。
なぜ今、心理的安全性か
2022年の箱根駅伝、青山学院大学が圧倒的強さを見せて6度目の優勝を手にしたのは記憶に新しいところですが、ランナーを育て上げてきた原晋監督も2019年時点のインタビューで「心理的安全性が担保された空気をつくってきた」と語っています。
書籍『心理的安全性のつくりかた』(石井遼介氏著/日本能率協会マネジメントセンター)が、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」でマネジメント部門賞、日本の人事部「HRアワード2021 書籍部門」で優秀賞を受賞したことからも、注目度の高さが見てとれます。
職場における「心理的安全性」とはどういうものか、心理的安全性がある組織はどのようなメリットや効果をもたらすのか、どのように作り出せばいいのか――チームを束ねたり部下・後輩を育成したりする立場にある方は、ぜひ知っておきたいトレンドです。
心理的安全性がもたらす効果
心理的安全性については、さまざまな学会が研究を進めています。心理的安全性が高いチームにはどのようなメリット・効果が確認されているのか、一例を挙げてみましょう。
●知識や情報が共有されやすくなり、その活用度が高まる
●学びが促進される
●仕事への集中力が高まる
●ビジョンが明確になり、目標達成に向けてのスピードが上がる
●問題を早期発見、早期解決できる
●業績が向上する
●業務改善が進みやすくなる
●イノベーションが起こりやすくなる
●エンゲージメントが向上し、定着率が高まる
●メンタルヘルスが向上する
では、このような成果を生み出す「心理的安全性が保たれた状態」とは、どのような状態なのでしょうか。
まず、心理的安全性が不足している環境でメンバーが抱える不安・行動特性は主に下記の4つといわれています。
【1】「無知」だと思われる不安
「こんなこともわからないのか」と思われたくなくて、必要な質問ができず、相談もしない
【2】「無能」だと思われる不安
「こんなこともできないのか」と思われるのが怖くて、ミスを報告せずに隠す。考えを正直に話せない
【3】「邪魔している」と思われる不安
会議などで、自分の発言によって長引いたり、本題から外れたりして「議論の邪魔をしている」と思われることのないよう、意見を述べたり提案をしたりしない
【4】「ネガティブ」だと思われるのではないか、という不安
改善のための指摘や提案をしたくても、「否定・批判している」と受け取られるのが怖くて言い出せない
心理的安全性が保たれた状態とは?
前述とは逆に「心理的安全性が保たれている」のは、次のような状態です。
●困ったとき、問題が発生したとき、気軽に相談ができ、早期解決できる
●新しいアイデアを提案しやすい
●自分の考えが受け入れられ、尊重されていると感じ、居心地が良い
こうした環境を作れれば、個人の成長が促進され、個々が持っているアイデアをチームの財産にしていくことが可能となるわけです。
心理的安全性への誤解や勘違い
心理的安全な環境とは、「アットホーム」「気楽に過ごせる」「勝手気ままに振る舞える」という意味ではありません。
また「結束力が強い」ということでもありません。結束力が強い状態は、裏を返せば「異なる意見を発しにくい」ともいえます。
メンバーの多くが意見を一致させている状況でも、必要であれば反対意見を言うことができ、それをとがめられない。リスクがあっても挑戦でき、失敗しても罰を与えられない――それが、心理的安全性が機能しているチームなのです。
心理的安全性をつくる方法
心理的安全性をつくるため、さまざまな手法が開発され、各職場の特性に合わせて導入されています。
日本の組織では、次の4つの因子があることで、心理的安全性が感じられるといいます。これらを意識した関わり方や行動を心がけてみてはいかがでしょうか。
【1】話しやすさ
話しやすさから生まれる行動とは、「意見を言う」「報告する」「連絡する」「建設的な反論を行う」「たずねる」「確認する」「質問する」「共有する」「雑談する」など。これに対して聞き手は「聞く」「傾聴する」「相槌を打つ」「御礼を言う」などの反応をしっかりと返す。
報告のクオリティが低い新人に対しても、「わからん。わかりやすく報告してくれ」ではなく「報告ありがとう」と対応する。これが「望ましい行動を増やす」ことにつながる。
また「何でも言ってね」ではなく、具体化した投げかけを行う。
<例>
「よりよい企画にするうえで改善点、懸念点、リスクを思いつく人はいますか?」
「この件を担当するうえで、不安な点を教えてください」
「もっとこうした方が、生産性が上がると思うことはありますか?」
【2】助け合い
助けてもらう側の行動は、「助け・協力を求める」「トラブルやミスについて話す」「相談する」「お願いする」など。
これを促すには、「相談」という行動のきっかけづくりを重視する。
「困っていることある?」「少しでも気になることはある?」「依頼したことで、わかりにくいところはなかった?」「手が回っていないことはある?」「悪いニュースはある?」など、きっかけとなる質問をする。
【3】挑戦
挑戦の行動とは、「試す」「工夫する」「企画する」「手を挙げ機会をつかむ」「プロセスを変更する」「アイデアを共有する」など。
これを促すには、【2】と同様。「きっかけ」づくりが重要。「挑戦を歓迎する」と率直に伝える。「失敗しても、そこから学ぼう!」と宣言する。
「何でもいいからアイデアを出して」ではなく、制約・制限を課す。たとえば、顧客の不平・不満、悩みや課題を探し、「それを何とかできないか」を考えることを促す。
【4】個性を歓迎
「個性・らしさ」を発揮し、周囲がそれを歓迎すること。発揮する側の行動は「自分なりのものの見方・見解を共有する」「強みを生かす」「自分が大切にしていることを共有する」など。これに対しては、個性を発揮することを率直に促す。「このチームでぜひ自分自身の強みを発揮してほしい。チームメンバーの感情や仕事への経緯は忘れず、けれどもあなたらしく働いてほしい。もし、強みを阻害されるような依頼やアサインがあったら、相談してもらって構わない」と伝える。
また、個性・強みを発揮できる配置を行う。
組織戦略トレンドは「人材ニーズ」にも反映
JAC Recruitmentでは、日々、多くの採用企業様とコミュニケーションを取っておりますが、なかでも、経営幹部候補人材やマネジメント人材を採用する際には、「心理的安全性の高い組織づくり」を実践できる人材を求めることが多いです。
例えば、興味を抱いた会社のマネジャー求人に応募し、「私は強いリーダーシップでチームの意見をまとめ上げ、統率してきた」とアピールしたとしても、その会社が「心理的安全性を重視した組織に変革したい」と考えていたなら受け入れられないでしょう。
転職ご希望であれば、その企業がどのようなマネジメント、ないしマネジャー像を求めているかを確認する必要があります。
JAC Recruitmentのコンサルタントは日々、求人企業と「求める人材像」のすり合わせを行っています。
個社ごとに求めている人材像はもちろん、転職市場を俯瞰して「人材ニーズのトレンド」をつかんでいます。
中長期でキャリアを形成していくにあたり、自身の現在の「市場価値」や、今後磨いていくべき経験・スキルなどを知りたいときは、JACにご相談ください。
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